語られぬ歴史を語ろう。

ある平和な村に一人の青年がいた。
彼は…、

ふよふよと浮かぶ意識の中、見せられる自分の知らない光景。
その映像に靄がかかったように混じる雑音のせいでうまく聞き取れないが、これは“誰の”夢なのか。

なぜか、これが自分の夢ではないとわかる。
そして、夢が夢だとわかる不思議な感覚。

こうして、彼はこの世全ての悪たれと祀り上げられ、ここに一人の反英雄が誕生した。


「…んー、なんやろこの夢?」
このかはいつもの時間に起きると、夢の中で見た妙に現実感あふれる夢に首を傾げるのだった。



アンリ・マユとお嬢様?

第3話 幼女と不審者 前編 〜漫才コンビな彼ら〜



「おい、そこのおまえ」
顔中に刺青のような不気味な文様を浮かび上がらせる青年、アヴェンジャーは鼻歌交じりに学園都市を徘徊していた。
もちろん理由は退屈だからである。

「あん?」
そんな怪しい人物に声をかけるものがいた。

「なんだその目は?」
ぶっちゃけ、幼女だった。
かなりのミスマッチである。
誘拐犯といたいけな少女といった構図といった方がしっくり来るほどだ。
力関係は、正確には逆だが…。

「いんや、別になんだこの幼女はなんて思ってないし、ましてやロリコンたちの希望の星なあんたに睨まれてもぞくぞくするような性癖なんてありませんよ、勘弁してください。
なんて思ってないぞ」
そんな退屈しているときに話しかけられた彼が、ただ返事を返すわけもなく、にんまりと歪な笑みをもって、目の前の幼女…もとい、エヴァンジェリンにケタケタ笑いながら言葉を返した。

「貴様…、くびり殺されたいのか?」

「きゃー、助けてー、幼女に襲われるー」
完璧に棒読みである。
まるきり、バカにしているようにしか聞こえない。
というよりも、事実馬鹿にしているのだろう。

「襲うか!!!」
ツッコミをありがとう。
内心でそう言いたいのを我慢した理由はもっとからかいたいからである。
哀れ、エヴァンジェリン。
やはり、彼女はいじられキャラとして不動の地位を築いているようだ。

「ん?
あれ?
…あんた吸血種か?」

「ほう、わかるのか?」

「ま、これでも英霊の端くれだからな。
ていうかよ、こんなところに放し飼いされてていいのか…ま、まさか!?
侵入者!?
きゃー助けておまわりさーん!!
ここにペドフィリアハンターな吸血鬼がいますよーーー」

「貴様!!
一体どこまでふざければ済む!!
というか、おまわりさんは違うだろ!!!」
キレて叫んではいるが、律儀にツッコミを入れている辺りはまだまだ余裕はありそうだ。

「んで、どうした幼女」

「幼女言うな!!」

「じゃあ、ちびっこ」

「却下だ!!!
はぁはぁ…、貴様には本当に殺意が湧きそうだ」
絶叫ツッコミをしたせいか、微妙に疲れ気味のエヴァンジェリン。
完全にアヴェンジャーのペースに巻き込まれていた。

「まぁまぁ、気にすんな。
んで、ちびっこが一体なんのようだ?
俺としてはもうちょっと出るとこでた方がおいしそうだが、別にこだわりはないから歓迎するぞ。
けけけ…」

「は?
なんのことだ?」

「これ、逆ナンだろ?」

「違うわ!!!」

「おーけー、おーけー。
んな照れんなって」

「貴様の頭には蛆が湧いているのか!!!
いいかげんにせんか!!!」
さすがに怒り心頭で殺気まで噴き出してきている様子のエヴァンジェリンにアヴェンジャーは肩を竦める。

「ふう…」
なぜか、アメリカナイズという感じで、妙に様になっている。

「まあ、いい。
いちいち貴様のペースに合わせていたら時間が足りん」
賢明な判断である。
いいかげん、学んだらしい。

「一応確認しておくが、貴様がアヴェンジャーとかいう新しい近衛このかの護衛だな?」

「ういっす、そんであなたはどこのどちら様でしょーか?」

「私の名はエヴァンジェリン・アナタシア・キティ・マクダウェル。
闇の福音、不死の吸血鬼だ」
どんっと擬音が付きそうなほど偉そうに、かつ自信ありげに胸を張るエヴァンジェリン。
だが、胸を張ってもないものは張れないんだよなー…とアヴェンジャーは哀れみをこめた視線で意味ありげにほくそえんだ。

「き、きさまは…」
ぷるぷると怒りを露にするが、自分をなんとか抑えつける。
彼女をここまでコケにする存在は世界広しといえど、サウザントマスター、アルビレオを除けば彼くらいのものだろう。

「けけけ…。
で、そのナイ乳…もとい、キティちゃんはどんな御用ですかー?」
完全に小さい子供を相手するかのような態度である。
それも、そのはず。
アヴェンジャーはエヴァをいいからかい相手を見つけた程度にしか思ってはいないのだから。

「き・さ・ま・は、なぜわざわざそこから抜粋する!!
もっと別の呼び方があるだろーが!!!」

「えー、文句多いなぁ。
キティちゃんって可愛いじゃん」
からかうのはいいが、微妙につられて幼児化してないですか?
アヴェンジャーさん。

「く…、いちいち反応するから奴が調子に乗るんだ。
なら、乗せられなければいい」
ぶつぶつと呟く姿は微妙に哀愁が漂っている。
だが、それが実行できないからこそこの状況になっているのであり、それ以上に彼女が黙っていられるわけがないことは歴史(サウザンドマスター&アルビレオ)が証明していた。

「けけけ…」

「単刀直入に言う。
貴様、私の従者になれ」
もはや、戯言は無視すると決めたのか、エヴァンジェリンはびしっとアヴェンジャーに指を指した。

「は?
これってあれか?
ツンデレ?」

「誰がいつもはツンツンしてても、二人のときはデレっとしちゃうだ!!!」
微妙に詳しいなあんた。
というか、なぜ知ってる?

「じゃあ、なんだ?
これってプロポーズか?
いやぁ、わるいねぇ。
俺ってばペドフィリアじゃねーんだよ。
イケなくはねーけど、個人的にはもっとこう…」
アヴェンジャーはニヤニヤ笑いながら胸の辺りを膨らませるジェスチャーをする。

「貴様は一体何を言ってる!!!」
ぜーはーぜーはーと息を切らして絶叫する彼女は本当に可哀想である。
むしろ、完全におもちゃとなっている。
これが、闇の福音の本当の姿だとするならば今まで彼女に倒された連中が実にむごい。

「やっぱ、あんたいいねえ。
マジで逸材だぜ、俺と一緒に世界目指さない?」

「なんのだ!?
…はっ…、また乗せられてしまった…。
相手をするな。
この手のやつは相手をするからつけあがるんだ…」
ぶつぶつと呟き、自分を諌めるエヴァ。
ここにチャチャゼロがいたら、さぞ楽しそうに笑っていただろう。

「まともに相手をしてたらキリがない。
いいかげん本題に入らせてもらう。
さて、貴様の能力だが、実に興味深いな。
予測ではあるが、人間に対する強制的な暗示、優先権といったところか?」

「はてさて、なんのことですか?
俺には心当たりはありませんよー、けけけ…」

「ふん、私を侮るな。
まだ他の連中は気付いていないが、高畑や、じじいほどの実力者をもってして勝てる気がしないと言わしめる実力を確かめに来たが、私には貴様の実力は奴ら以下どころか、普通の人間にすら劣る。
そこから導き出される答えは唯一つだ」

「ヒャハハ…お見事!
伊達に歳食ってねーな」
アヴェンジャーは笑いながら手を叩くと、あっさりと答えを口にする。

「ふん、褒めても何も出んぞ。
それよりも、貴様の能力だ。
実際のところはどういったものだ?」

「今回はサービスで教えてやるよ。
人間という種に対しての絶対殺害権だ。
相手が人間ならば、英霊以上の化け物じみた超人でも俺には勝てねーってわけだ。
納得いったか?
とはいっても、これは俺の能力…というより、特権だがな。
けけけ…」
自分の切り札を簡単にバラすのもどうかと思うが…。

「そういうことか…。
こいつは恐ろしい能力…、ちょっと待て。
貴様今、特権といったな?
特権とはどういう意味だ?」

「そのまんまの意味だよ。
けけ…、てめえだって、俺がただの人間じゃねえ事に気付いてんだろ?」

「ああ。
貴様にはどこか違和感を感じる。
私でなければ気付けない程度だが…」

「でも、あんたマジですげーな。
今まで見てきた魔術師の中だったらダントツだわ」

「ふん、私を誰だと思っている。
それよりも、さっさと先に進めろ」
そうは言うものの、まんざらでもない様子である。

「はいはい。
俺はあんたの言うとおり、人間じゃなくて英霊だ。
といっても、英霊の中でも最弱中の最弱だけどな。
その代わり、人間相手なら蜘蛛と犬を抜かせば右に出るものはいねーけど」

「英霊だと…?
どこかで聞いたことがあるな…。
…そうだ。
たしか、何か偉業をなし、祀り上げられた存在が昇華され魂だけの存在になったもの…だったか?」

「ビックリなくらい物知りだな、あんた。
ま、手間が省けていいけどよ」

「何百年も生きていれば自然と耳に入る。
まさか、存在するとはな…。
作り話だと思っていた」

「そりゃ、そうだ。
英霊が現れたときにはもうそこには何も残んねーからな。
けけけ…」

「どういうことだ?」

「エンカウント率がめちゃくちゃ低いレアモンスターみたいなもんだよ」
凄まじい言い草だった。

「貴様の言うことはイマイチよくわからん」

「ま、あれだ。
エンテイとか、スイクンみたいなもんだ」
ポケモンかよ。

「メタな発言はやめろ」

「というわけで、俺には世界から与えられた特権があるというわけだ。
理解したか?
デューユーアンダスタン?」
どういうわけだ…。

「ああ、理解したぞ。
貴様がとてつもなく不愉快なやつということも、私には貴様の能力が無意味だということもな」
にやりと邪悪な笑みを浮かべるエヴァンジェリン。
アヴェンジャーがその笑顔の意味に気付いたときにはもう既に遅かった。
いつの間にか彼の身体に巻きついた不可視の糸がアヴェンジャーを拘束していた。

「いやー、らーちーらーれーるー!
俺って、ハードMだけど、縛られるより縛る方が好きなのにー」
首ぶんぶん振りつつもがく彼は実に楽しそうである。

「くくく…、さきほどまでの屈辱を倍返しにしてやろう。
さあ、逝くぞ」
エヴァンジェリンは巻きついた糸を引っ張り、身動きできないアヴェンジャーをずりずりと引きずりはじめた。

「すんません、いくの漢字ちがくないっすか?
というか、むしろ俺ってどこに連れてかれんの?」

「私の家だ。
じっくりと拷問してやろうじゃないか」
くくく…とくぐもった笑いににやりと口の端を歪める。

「げ、こーろーさーれーるー!!
助けて女王様!
折檻は、折檻は堪忍してー」

「誰が女王様だ!!!」
どこまでも緊張感のない二人であった。

「ドナドナド〜ナ〜…」

「歌うな!!」


ちなみに、忘れてるようですが、ここは道路のど真ん中です。
気付いていないが、彼らに向けられる視線はかなり痛かったとだけは言っておこう。



後編につづく…と、思う


あとがき
ぶっちゃけ、暴走しすぎましたw
これアヴェンジャーじゃなくなってるしw
だれだ?
これ?
って突っ込みは禁止ですw

でも、アヴェさんの性格って掴みにくい…。
しかも、完全にお笑い路線に入ってるし…。
ちなみに、次はチャチャゼロ&茶々丸が登場…の予定。

あ、最初のあのシーンはご想像にお任せしますw
伏線なんでww

では、感想待ってます。