注意:この話は、ギャグ&シリアスで出来てます。
   前半と後半の差に仰天しますので、それらを踏まえたうえでお読みください。



あれからもう10年以上の月日が経っていた。
ボクはすっかり大人になり、“立派な魔法使い”として活躍をはじめ、裏の世界では名立たる実力を持つ者としても有名になっている。
その傍らで、父を探すことも忘れてはいない。

だけど、ボクは旅を続けるうちに真実を知った。
なぜ、父がサウザンドマスターと呼ばれていたのか…。

それは、いつの日か自分の使い魔であるアルベール・カモミールが言った言葉と同じだった。

父は…

千人の女性と仮契約をしたからサウザンドマスターと呼ばれていた…と。

ぶっちゃけ、絶望した。
厳密に言えば、千人と契約したわけではないが、千人の女性と関係を持っていたことは間違いない。
むしろ、千人で済むのかもわからない。
世界中に兄弟がいそうで怖いほどだ。

だが、その場合、噂くらいにはなるであろうから実際はいないと思う。

まじめな話、避妊魔法ってあったっけ?

そんなくだらないことを考えてしまうほどに、父は女にだらしなかった。

そして、ボクは決めたんだ。
“遊ぼう” …と。

なんで今までやらなかったのだろう。
そう思うほどに、僕の心は清清しい気持ちでいっぱいであった。

さーて、誰から手を出そうかな?
こんなことなら、全員とパートナー契約切らなければよかった。
今のボクはそんな外道な考えすら容認できる。

目指すはハーレムだ!!
別の意味で父を越そうと誓った瞬間だった。



そのとき、彼は確かに浮かれて油断していたのだろう。
普段ならば、対応できるはずの狙撃に一瞬反応が遅れ、凶弾は障壁を破ってネギの胸を正確に貫いた。

「くっ…」
痛みを何とかこらえて、転がるようにして物陰に隠れる。
だが、再び狙撃されるのは時間の問題である。
それに、弾丸は確実に急所を貫いており、ネギの使える回復魔法では焼け石に水をかけるようなものであった。

「くそ…」
思わず、悪態をつく。
ネギは、自分が常に狙われていることを知っていた。
表立っての賞金はないが、裏の世界では己の師匠であるエヴァンジェリンに匹敵するほどの賞金がついていることも熟知していた…はずであったのに、今日に限って油断するとは…。
彼は痛む胸を押さえながら唇を噛む。
このままでは、死は確実であり、一刻も早く治癒術者に見て貰わねばならなかった。

そのとき、彼はふと思いついた。
頭に浮かんだ選択肢は二つ。
この場から無理をして治癒術者の元へ転移し、助かる見込みに賭けるか、それとも、今まで自分が使うことをためらっていた禁断の秘術・時間逆行魔法に全てを賭けるか。
前者のほうが助かる見込みは高い。
だが、後者は超鈴音のカシオペアを数年かけて研究し、偶然編み出した術法。
実験すらしていない上に、成功するかどうかすら定かではない。

考えているうちにも、タイムリミットは近づいていく。

そして、ネギは選んだ。
無謀ともいえる過去への逆行へと…。

「どうせなら、全部やり直してやる。
それで、ハーレム作りだ!!」
シリアスな空気が台無しだった。
もはや、過去の真面目だったネギはいない。

どうせ、どちらも死ぬ確率があるのなら…という考えがあるのは確かではあるが…。

父への憧れ?
なんですか、それ?
おいしいんですか?
と、言わんばかりである。

「げほ…、時間がないな。
ラス・テル・マ……」
ネギは肺に溜まった血の塊を吐き出すと、精神を集中させて呪文を唱え始めた。
やはり、ギャグっぽいことを言っていても、痛いものは痛いらしい。
お約束は適用されないようだ。

そんなことはどうでもいいが、ネギは呪文をあと少しで唱え終わるというところで、狙撃手が自分のことを狙っていることに気づいた。
だが、今制御を手放せば魔力が暴発して死ぬのは自分である。

そして、再び凶弾は放たれる。
それはコンマ数秒のやりとり。
だが、ネギは呪文を構築し終え、紙一重の差でネギの身体はその場から消え、銃弾は虚空を穿つのだった。



ぶろ〜くん・わ〜るど

第一話 成功のち、窮地


ゆっくりと、目を覚まし、あたりを見渡すと、そこは自分が知っている光景だった。
むしろ、自分を形作った因縁の場所である。

そして、気づいた。
自分の視点が異常に低い。
近くにあった湖を覗き込むと、湖面には幼きころの自分が映し出されている。

「やった!!!
成功だ!!
でも…、戻りすぎたかも…」
おかしいな?
と、首をかしげるネギだが、スナイパーに狙われていたからだと、自分を無理やり納得させた。

「というか、今いつだろう?
まさか…」
さーっと顔から血の気が引いていくのがわかる。

湖にいる子供のころの自分=まだ村が存在する。
くわえて、手の中に存在する釣竿、季節など、今わかる様々な要因から導き出されるの答えは一つ。

悪魔が村を襲撃する当日だった。

ネギは気づいたときにはすでに走り出していた。

「間に合ってくれ!」
馴染まない子供の身体を必死に駆使して村へと走るネギ。
ようやくついた先には、まだ村があった。

だが、ほっとしたのは束の間で、丘の上から見下ろす先には膨大な数の悪魔の群れが村に向けて進軍していた。

「ぎりぎり間に合ったか…。
これじゃあ、準備する暇もないな。
この身体じゃキツイかもしれないけど、やるしかない」
ネギは、自身を鼓舞するように呟き、すーっと大きく息を吸い込み己のうちに眠る、使われていない魔力を強引に引き出す。
しかし、それは今のネギにとって自殺行為に等しい。
幼い彼の身体は魔力の負荷には耐えることは出来ない。
ネギは、意識を失いそうになるのを耐えるために血が出るほどに唇をかみ締めた。

過去を変えるという行為がどれほど罪深いことかはわからない。
今なら超鈴音の気持ちがわかる。
彼女がなぜ行動したか。
たとえ、その先にある未来が平行世界であったとしても、確かに救われるものはいるのだ。
ならば、今は全てを忘れて前を向こう。
ネギは、決意を力に変える。


「誰も、失うもんか…。
今度こそ…、今度こそ誰も失わせない!!!」
そして、覚悟が彼の身体を後押しする。

今にも倒れそうなほどに憔悴しているネギの身体からは知覚できるほどに膨大な魔力が溢れ出している。
これこそ、悪魔たちが恐れた力。
村を狙った理由だった。

そんな彼の魔力に悪魔たちが気づかないわけもなく、悪魔の軍勢はふいに立ち止まると、一斉に魔力の立ち昇る場所へと視線を向けた。

そう、ネギは己の身を囮に使ったのだ。
“あのときのように”失わないために…。

「来いよ。
化け物ども…、ラス・テル・マ・スキル・マギステル…」
ネギは、これから始まる絶望的な戦いにも恐怖など見せず、幼い容貌にはまるで似合わない獰猛な笑みを浮かべた。

悪魔の軍勢は一斉に飛び上がると、ネギに向かって進軍する。

「……の精!! 雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐!!
雷の暴風!!!」
膨大な魔力によって紡ぎだされる魔法は悪魔の軍勢をまるで紙切れのように容赦なく引き裂いていく。
だが、今のネギにとってそんなことはどうでも良かった。
今の彼にとって最大の敵は自分自身である。
鍛えてある未来ならまだしも、今の彼の体は5歳にも満たない脆弱な子供である。
いくらその才能が天に愛されていようと、耐えられるかどうかは別であった。

ネギは、今にも意識を失ってしまいそうな自分を必死に繋ぎ止めてはいるが、意識の前に身体が砕け散ってしまうのではないかと思うほどの痛みに襲われていた。
それもそのはず、無理やり魔力を引きずり出した代償ゆえにか、ネギの全身の至る所から血管という血管が破裂し、彼の全身は血まみれになっている。

「ぎ…ぎぎ…ぐがああ…ぐぐ…ああああああああ……!!!!」
獣の咆哮。
正に、そうとしか言い表せない叫びに暴風に巻き込まれていく悪魔たちは恐怖した。

そして、暴風が悪魔たちの7割ほどを薙ぎ払ったとき、その瞬間は訪れた。
ネギは、突然糸が切れたかのようにがくりと膝をつくと、ゆっくりとその場に倒れこんだ。

「あ…れ?」
なんで地面が目の前にあるんだろうと思ったが、次の瞬間には自分が倒れたことに気づいた。

「うそだろ…。
まってくれよ…、まだ敵がいるんだ。
もう少し、もう少しでいいから動いてくれよ!!」
ネギは地に伏したまま叫ぶが、身体はぴくりとも反応しない。
それも、当たり前だった。
今、彼に意識があること自体が奇跡にも等しいのだ。
そんな彼の身体が動くわけもなかった。

「動け!!
動け!!
動け、動け動け動け動けーーー!!!
ボクはもう誰も失いたくないんだ!!
お願いだから動いてくれ…」
瞳からはいつしか涙がこぼれ始めていた。
やっと掴んだチャンスが目の前で零れ落ちていく様にネギの頭に絶望がよぎる。


「よくがんばった」
だが、救いはあった。

「え?」
うつぶせに倒れているネギにはその姿は見えなかったが、その声には聞き覚えがあった。
否、忘れるわけがない。

「とう…さん…?」
呆然と呟くネギの頭を声の主は優しく撫でると、ネギの身体が温かな光に包まれ、彼は安堵したように意識を闇に落とした。





「間に合ったか…」
突如現れたサウザンドマスター、ナギは治癒魔法を掛け、ネギを仰向けに直すとゆっくりと上下する胸に安堵の息を漏らした。

「さすが俺の息子ってところか?
その歳でよくもまあ無茶しやがる。
だが、…あとは俺に任せておけ。
お前のがんばりを無駄になんか絶対にさせたりはしねえ!!」
聞えてはいないことはわかっていても、ナギはネギに語りかけ、押し寄せる悪魔の軍勢をにらみつけて虚空へと飛び上がる。

「さってと、てめえら覚悟できてんだろうな。
きっちり落とし前つけさせてもらうぜ!!」
もはや、わかりきった結末を語る必要はないだろう。
ある歴史において、二人しか生き残らなかった大事件は、石化されたものを含め、数人の死傷者を出すだけに留まった。
ネギは、全ての人を救いたかったと目を覚ましたときに嘆くが、それは傲慢な考えである。
人には限界がある。
全てを救うことなどできはしない。
だからこそ、この結果に喜ぶべきだろう。
彼は確実に過去を変えたのだ。
そして、これからの未来も。

それが、どのように歴史を変えてくのかは今はまだ誰もわからない…。
願わくば、幸福な未来を紡げるように…。



あとがき
なんか、新連載を書き出してしまった…。
ナコト写本はどうした!!
って声もあるでしょうが、まあまあ(おい

さて、いかがだったでしょうか?
まあ、よくある不条理逆行モノ
ちなみに、今回のぶろ〜くん・わ〜るどですが、こんな始まりでもギャグ展開になります。
シリアスなのは最初だけです。
トラウマをなくしておきたかったからこそこんな展開にしました。
これから先、ネギはどうなるんでしょうね?

とりあえずアーニャですw(なにが

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