ナコト写本の契約者
 
0.5話 あれからの日々で

あれから数日後、僕は駆けつけた救援部隊によって”ただ一人”助け出された。

あの日から僕の心は死んだように感情の起伏に乏しくなった。
まるでその身に宿った強大な魔力と引き換えのように…。

仮にそうだとしとてもやることはかわらなかった。
あの時強くなるためにナイアの囁きに耳を傾けたように僕は貪欲に強さを求めた。
知識を詰め込み、魔力を操る術を”突き動かされるように”鍛え続けた。



そして数年後のある日、僕は彼女に出会った。
その日もいつものように机に向かっていると突如本から光と魔力の奔流があたりを呑み込み光が晴れるとそこには一人の少女が立っていた。

「私は本に宿る精霊で、エセルドレーダと申します。」

少女はそう名乗るとぺこりと丁寧にお辞儀をした。

「それでその本の精霊が何の用ですか…。」

僕は対峙した瞬間に理解した。
これはあの時出会ったナイアとはまた違うおそろしい存在であると。
緊張に声は強張り、背中には冷や汗をびっしょりとかいていた。
今すぐにでも逃げ出したくなる気持ちを押し込めながら少女を見つめ返した。

「警戒なさらないでください、マスター。」

「マスター・・?」

耳慣れぬ単語に思わず聞き返す。

「はい、私はマスターの契約した魔道書ナコト写本の精霊であり、あなたはその所有者です。
ですから警戒は不要です。」

「そうですか、なぜ今になって顕れたんですか?」
敵意がないのがわかり、ネギは警戒をそっと緩めた。

「それは・・・。」

彼女は悔しそうに端正な顔をゆがめていった。

「私がマスターの手に渡る前に発生した戦いの際にアル・アジフとそのマスターによって前マスターを”殺”され実体化もできぬほどに消耗させられてしまったためです。
そしてマスターの魔力を使い、完全には程遠いですが今日やっと回復できたためです。」

「えーと・・・。」

「好きに呼んで下さって構いません。」

少女は瞬時にこちらの考えをよんで切り返す。

「じゃあ、エセルはこれからどうするの?
僕は強くなりたい。
何を捨ててでも強くなりたい。
そのためにもエセルとの契約を切るわけにはいかない。」

僕は彼女の真意を確かめるために言った。

「私の望みはあの憎き大十字九朗とアル・アジフに復讐することです。
それにさえ協力して頂けるのならば私はあなたに力を貸します。」

その言葉に偽りはなく圧倒的な憎悪は僕の体を貫くようだった。

「目的は一緒みたいだね。
僕は強くなるためにエセルに協力を求め、そして僕が強くなればエセルは復讐を果たせる。」

「ええ、ならばこれからよろしくお願いします。」

僕たちはどこか欠けたような笑みを浮かべた。
そして契約は成された。
このやりとりこそが僕たちにとっての真の契約なのは間違いなかった。

「あっそうだ、いい忘れてたけど僕の名前はネギ・スプリングフィールド。
僕もキミと同じく復讐のために…。」



それは必然だったのかもしれない。
真実は邪神の企みだったとしても復讐という闇に囚われた二つの心は互いの傷を舐め合う様にその運命に絡み合って転げ落ちていった。


あとがき
これもいずれ書き直します

このネギくんは現実に絶望して歪みまくりです。
だからこそナイアが目をつけたのですけど・・・。
それにナギが来なかったらこれくらい歪むのは当たり前だと思います。
4歳にして虐殺&石化を目の当たりにしているのですから。

エセルドレーダがいるとカモの立場がね−なとか思ったのはここだけのお話。
ちなみにテリオンは文字通り殺されたので生き返りません。
ナイアは逃しても企みは打ち砕いたので。
なのでエセルは九朗に恨みたっぷりです。

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