ナコト写本の契約者
 
プロローグ


あれは雪が降る日だった。
その日もいつものように穏やかな日々が流れることを信じて疑わなかった。


「そうだ!
今日はネカネお姉ちゃんが来る日だった。
早く村に戻らなくちゃ。」

僕は思い出すとお姉ちゃんに早く会いたくなって村に向かって走り出す。
村の近くの小高い丘に着いて見えた光景は地獄絵図だった。

いつものような平和な村の姿はなく、あたりは紅く彩られていた。
そんな地獄の中で村の魔法使いは黒い羽の生えたものや大きい尻尾の生えたものに抵抗するまもなく潰され、石化されてゆく。

「ひっっ…。」
その光景を直視し僕の喉からは引き攣った声がもれる。
怖い…。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い…。
お願い、助けてお父さん…。

願ったところで父が助けに現れるはずもなかった。

僕は逃げ出すように一目散にその場所からわき目もふらず駆け出した。
頭の中にあるのは死にたくないという唯一つの思いだけ。
僕は追い立てられるように丘を駆け上がる。

そのとき、横から飛び出してきた何かが僕に向けて発射した。

「くっ・・・。」

それを駆けつけてきたおじいちゃんとお姉ちゃんは苦悶の声とともに受け止めおじいちゃんは呪文を唱え口の大きな悪魔を封じ込めた。

「ネギ・・・、はや・・く、にげ・・・。」

その言葉を最後に石になったおじいちゃんを見て僕は怖くなってその場から逃げ出した。

石になったお姉ちゃんたちを見捨てて・・・。


「いけないこだなぁ。
坊やは家族を見捨てて逃げ出したのかい?」

村から逃げ出しひざを抱えながら震えていた僕の元に女性は笑いをこらえるようなしぐさでやってきた。

「だ、だれ?」
僕は怯えたように声を出した。
目の前の存在に底知れぬものを感じ身を震わせた。

「おや、そんなに警戒しないでおくれよ。 ぼくの名前はそうだな、ナイアとでも呼んでくれたまえ。」

「・・・。」

「すっかり怯えさせてしまったようだね。
ぼくはキミに用が合ってきたんだ。」

「よ・・う?」

「キミは力が欲しくないかい?」

それは圧倒的な重みを持ってぼくの心に響いた。

「そう、力だ。」

「どうすればいいんですか…。」

それが危険な選択だとわかっていた。
だけど僕は思わず聞き返していた。

「簡単なことさ。
このナコト写本と契約してくれればいいのさ。」

そう言ってナイアがどこからか取り出した本はぼくでもわかるほどの禍々しさを醸しだしていた。
本能は逃げることを進めているにもかかわらず僕はその本に手を伸ばした。

「うん、さすがだよネギくん。
キミなら受け取ってくれると思っていたよ。」

ナイアは嬉しそうに微笑むがそれはどこか歪な笑みだった。

「どうやって契約すればいいんですか。」

「キミがその本を受け取った時点でもう契約は済んでいるんだよ。
本来なら本の精霊がするんだけどね。
九朗くんたちとの戦いで弱りきって当分出てこれないだろうからね。」

「僕はこれで強くなれたんですか?」

「勿論だとも。
今はまだ大した力は使えないけれど数年後にはサウザンドマスターよりも強くなっているんじゃないかな。」

「お父さんよりも…。」

「そう、キミのピンチのときにあらわれもしなかったお父さんよりも…。」

その言葉は僕の心に深く入り込んだ。

「ふふふ、ぼくはそろそろ行くとするよ。
キミの成長を期待しているよ。
またね。」

そう言ってナイアはその場から消えた。


僕はずっと信じていたんだ。
ピンチになったら父さんは必ず助けに来てくれるって…。
だけど、残ったのは僕と一冊の本。
僕は一人深い絶望と共にすべての人が石化された燃え盛る虚ろな街を見下ろしながら泣き続けた。


どんなに願おうと奇跡なんて起きないし、ピンチになってもお父さんは助けてくれない。
そして、日常なんてものは突然崩れ去るから尊い事なんだって知ったんだ。
だから僕は力を求めた。
たとえそれが・・・。



あとがき
やっと移転完了。
改定前なので文が荒い。
今度また書き直します。

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