ナコト写本の契約者

第14話


「やっと、京都に着いたね。」
ネギは肩にいるカモに呟く。

「兄貴、刹那のヤツがこっちを見てるぞ。」
警戒した声で忠告してくる。

「わかってる。
でも、まだ敵だと決まったわけじゃない。 後手に回ることになるけど不意打ちはエセルがいるからなにかあっても十分対応できる。」

「そうか、兄貴なら大丈夫だと思うけど気をつけてくれよ。」
カモは警戒心が拭えないのかどこか慎重そうだった。

「ネギくーーん!!
一緒にあそぼ!!」
そんなとき、思案にふけっているとまき絵や鳴滝姉妹が元気な声を出して近づいてきた。

「あ、はい。」
それに返事をすると警戒することや問題を今は考えないようにしてせっかく来たのだから楽しもうとまき絵たちと一緒に観光をすることにした。


考えないよう観光を楽しもうとしたのだが、そうは問屋は卸さないらしい。
道行くたびに説明するのも馬鹿馬鹿しくなる子供だましのような罠が待ち受けていた。
おそらくこちらの対応の仕方を見ているのだろうと推測できるが、まだ敵か味方かも判らない刹那に見られている状態では派手に動くことが出来ず後手に回り続けた。


そして、音羽の滝で酔っ払った生徒をバスに押し込み早めに旅館について本日の観光を終えた。

ネギは旅館につくと自分にあてがわれた部屋にこもるとカモと顔を合わせて対策を立て始めた。
「それでどうするんだ兄貴?」

「でも、まじめにやるのもばかばかしくなる罠ばかりだね。」

「兄貴ならわかっていると思うが多分ここからが本番だぜ。
さっきまではほんの小手調べといったところか。」
カモは神妙な顔で頷きながら言う。

「そうだね。
幸いこちらの手の内は見せていないからよほどの能力者でなければどうにでもなる。」
そのとき、いつの間にか時間が過ぎていたのかノックの音とともに扉の向こう側からしずなの声が聞こえ、教員の入浴時間だと告げられた。
ネギは返事を返すと準備を済ませて風呂に向かった。


「すごいねー、これが露天風呂って言うんだって。」
ネギは露天風呂に入ると入浴の気持ちよさにほほを緩ませていた。
「風が流れてて気持ちいいねー。」

「おうよ。
これで桜咲刹那の件がなければなー。」
カモはお猪口を片手に愚痴をこぼす。

「彼女は剣士だから苦手だな・・。」

「兄貴は魔法使いタイプだからいくら強化しても体術じゃ勝負にならねえな。」
対刹那を想定してかカモの意見は厳しかった。

「ほんと、どうしようかなー。」
そう言ってため息をついていると脱衣所の扉が開く音がし、誰かが入ってくる気配がした。
誰だろうと呟きながら振り向いて背後をうかがうとそこには話題の中心である刹那が一糸纏わぬ姿で湯浴みをしていた。

「はあー、綺麗だね。」
ネギはその一種の芸術ともいえる艶姿に顔を赤らめながら思わず洩らした。

「こーゆーのを大和撫子っていうんだぜ。」
一緒に見とれながらカモは呆けたように言う。

「あ、これって覗きじゃ・・。」
ふと冷静になるといけないことだと気付いてあわてて目をそむける。

「んなことより、逃げるぞ兄貴!」
互いに小声で呟きながら移動を開始しようとすると刹那の言葉が言葉を紡いだ。

「困ったな。
魔法使いであるネギ先生なら何とかしてくれると思ったんだが・・・。」
その呟きに未熟なネギは一瞬殺気を漏らしていた。
すぐに殺気を抑えるがそれもすでに遅く、刹那は敏感に感じ取っていた。

「誰だ!!」
刹那は刀に手を掛け居合いの構えを取るのを見て逃げるのを諦め瞬時に体を魔力で強化し、呪文を唱え始めた。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル・・・。」

「させるか!!」
こちらの詠唱が聞こえたのかそれを邪魔するために身を隠していた岩を真っ二つに切り裂き即座に距離を詰めてきた。
ネギは詠唱時間が得られないことに気付き瞬時に切り替えもっとも詠唱の短い呪文を唱えた。

「風花・武装解除!!」
気休めでしかないが刹那の武器がはじかれ無手同士のぶつかりあいとなった。

「フッ・・。」
刹那は不敵な笑みを浮かべて懐に飛び込み、片手でネギの首を掴みもう一方の手で股間の急所を握った。
ネギもつかまれる瞬間一矢報いるためにも防御を捨てて片手を後ろについて身を支えながら片手で刹那の首を掴んでいた。

どちらも力を込めれば命を奪える状況だったが、その実体勢の安定していないネギのほうが不利であった。

「何者だ。
答えねばひねりつぶすぞ。
こちらのほうが速いことくらいわかっているだろう・・。」
刹那は刃物のように鋭い視線で言う。

「くっ・・。」
“チェックメイトか・・・。”
内心で舌を打ってエセルに念話で語りかけようとすると、

「・・・って、アレ?
ネギ先生?」
なんていう正気に返った声が聞こえた。

「あ、あの・・手、離してもらえませんか・・?」
彼女の目の色が変わったことがわかり、顔を赤くしながらぽつりと言った。

「あ・・、すみません。」
自分が今どこを握っていたのか思い出したのか慌てて手を離して仰け反った。

「はああああーーー。」
さすがに大事なところを握りつぶされそうになって平気な顔をしていられるほど図太い神経ではなく安堵して盛大にため息をついた。

「い、いえ、あ、あのこれは仕事上急所を狙うのがセオリーで・・・。」
わたわたと手を振りながら言い訳するその姿は先ほどまでの凛々しい姿とはかけ離れていた。

「や、やいてめえ、桜咲刹那!!
やっぱりてめえは関西呪術協会のスパイだったんだな!?」
カモはネギの頭に飛び乗ると刹那に視線を合わせて怒ったように言う。

「なっ、違う、誤解だ。
私は敵じゃない。
15番 桜咲刹那、一応先生の味方です。」

「へ?そうなんですか?」
ぽかんとした表情で尋ねたとき、脱衣所のほうから悲鳴が上がった。

「この悲鳴は!!」
「このかお嬢様!?」
悲鳴が聞こえると即座に刹那はその方向に爆発的な推進力を持って更衣室に飛び込んだ。
ネギはそれに少し遅れて追いつくとその光景に思わず頭を抱えたくなった。
そこには明日菜とこのかが式神と思わしきサルに下着を剥ぎ取られまいと必死に抗っていた。

「あ、せっちゃん、ネギくん!?
あーん、見んといてーーっ。」

「この小猿どもが・・・。
このかお嬢様になにをする!!」
怒り心頭の刹那は抜刀して戸惑いの声をだす明日菜の声を無視して露天風呂からこのかを連れ去ろうとするサルを“百烈桜花斬”と呟き目にも留まらぬ速さで切り刻んでこのかを抱き上げた。

式神をやられたためか木の上からがさりと音がすると急速に気配が遠のいていくのを感じた。
くやしいことに敵にまんまと逃げられ刹那とネギは二人して内心で舌を打った。

「せ、せっちゃん。
なんかよーわからんけど助けてくれたん?
あ、ありがとう。」
しかし、照れた表情でお礼を言うこのかに戸惑いの表情を浮かべて刹那は走り去った。

ネギは刹那のことは後回しにし、疑問符を浮かべる二人の事後処理をすることにした。
「すみません、このかさんあれはCGなんですよ。
本当に最近のものはよく出来てますよね。」
もちろん真っ赤なうそだがこのかはそれを疑うことなくなるほどCGなんだと呟いていた。
明日菜のほうにはすれ違う瞬間、
「忘れたほうがいいですよ。」
と呟き彼女ならこれで十分だろうと思い、その場を後にした。


あとがき
ふう、今回は結構きつかった。
そして、完全に刹那ルートと化している14話。
次は多分同盟&共闘です。
過度の期待は禁物。
原作と仲間の数は同じでもパートナーのレベルが違うのであっさりいきます。

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