ナコト写本の契約者

第15話


ネギは着替えを済ませ刹那と話をつけるためにロビーで二人向かい合って座っていた。

「えと、今のは?」
今のというのはロビーになにかを貼り付けていた行為のことだ。
話し出すきっかけとなればと思いそこから切り出した。

「あれは式神返しの結界です。」

「結界ということは・・・刹那さんも日本の魔法を使えるんですか?」
剣士だということしかわからなかったのでネギは若干の驚きを含んで言う。

「ええ、剣術の補助程度のものですが・・。」

「なるほど、ちょっとした魔法剣士ってわけだな。」
肩に乗るカモは納得いったというように頷いていた。

「さて、敵の嫌がらせがかなりエスカレートしてきました。
このままではこのかお嬢様にも被害が及ぶかねません。
それなりの対策を講じたいのですが・・・。」
刹那はそこで一拍きり、じろりと視線を向けて続けた。

「ネギ先生は優秀な西洋魔術師と聞いていたのでうまく対処してしてくれると思ったのですが・・・意外と対応が不甲斐なかったので敵が調子に乗ったようです。」

「すみません、さっきまで刹那さんのことを敵かもしれないことを疑っていたので手の内を曝せなかったんですよ。
そのせいで後手に回ってしまったのは事実なので責められても仕方ありませんが・・・。」
それは言い訳でしかなかったが事実なのでそうとしか言えなかった。

「そうでしたか・・。
安心してください、私は味方です。」

「すまねえ、剣士の姐さん。
俺としたことが目一杯疑っちまった!!」
カモは可愛らしく手を合わせて謝った。

「本当にすみません。
味方だとするなら隠す必要もないので呼びますね。」

「呼ぶ?」

「ええ、エセルドレーダ!」
ネギは疑問の声に答えるように何もない空間に声を掛けると、目の前の空間が不自然に歪み一人の女性が姿を現した。

「お呼びですか、マスター。」
エセルドレーダはいつもの無表情を崩すことなく軽く頭を下げた。

「これは・・。」
刹那は驚きに目を丸くしていた。

「紹介します。
僕のパートナーのエセルドレーダです。」

「・・・。」
紹介されたというのにエセルドレーダは刹那のことなど興味ないのか無言だった。

「あの、先生。
エセルドレーダさんは何者なんですか・・?
退魔師としての経験ゆえか、なにか引っかかるのか訝しげに呟かれた言葉には警戒が含まれていた。

「刹那さんならお分かりになるかもしれませんが、内緒ですけど彼女は人間ではなく精霊です。」
得体の知れないものとの共闘などできないだろうと思いあまり言いたくはないが彼女の正体を口にした。

「精霊・・・、すごい・・。」
その声は驚きというよりも思わず口からこぼれたといった感じだった。

「これが信頼の証になるかはわかりませんが彼女を切り札として隠しておきたかったので昼間は後手に回らざるを得ませんでした。
それに、僕も協力するので敵のことについて教えてくれませんか?」
他人の信頼を得るにはまずこちらの誠意を見せるべきだと思ったネギは偽らざる本音を口にした。

「ありがとうございます。
・・・・私たちの敵は関西呪術協会の一部勢力で陰陽道の呪符使い。
そしてそれを使う式神です。」

淡々と話し出した刹那の話はこうだった。
陰陽術師というのも西洋魔術師と同じパートナーを従え、そのパートナーというのは式神という強力な存在であることに加え、それらを破らなければ術者に攻撃を加えられない。
そして、刹那の修める剣術“京都神鳴流”は関西呪術協会と深い関係があり、彼らが呪符使いの護衛につく可能性もあるそうで、もし護衛につかれたら“京都神鳴流”の剣士は強力な存在で非常に厄介らしかった。

「わかりました。
でも神鳴流は敵なのになぜ刹那さんは・・・。」

「はい・・、彼らにとって私は西から東についた裏切り者です。
でも、私の望みはこのかお嬢様をお守りすることです。
そのためなら仕方ありません。」
俯きながらもきっぱりと告げた刹那をネギはどこかまぶしく感じた。
自分にはもう守りたいものなどいない。
すべて失い、復讐のための生。
裏の世界に足を踏み入れながらも自分とは明らかに違う負の感情を抱かせない刹那をうらやましく感じた。

「先生?」
急に黙り込んだネギを怪訝な顔で覗き込んできた。
ネギは瞬時に笑顔を作り上げて誤魔化した。

「いえ、何でもありません。」

「本当ですか?
今・・・。」
泣きそうな顔をしていましたよ。 そう言おうとしたが刹那はこれは言うべきではないと直感してその言葉を寸前で飲み込んだ。

「ええ。
それでは僕は見回りに行きますのでなにかあったら連絡してください。」
そう言ってネギは顔を見られたくないのもあり、返事を待つことなく立ち上がって踵を返した。

「あ、はい、わかりました。」
刹那は突然立ち上がったネギに多少驚きつつも思うところがあったのか返事をして遠ざかる背中を見送った。



その頃・・・。
「おおっと、すみませんね。」
所用のため館外に出た新田がホテルの従業員とぶつかりそうになっていた。

「いえ、こちらこそ申し訳ありません。」
二人は謝りながら散らばったタオルや衣類を回収し終えて再びぺこりと頭を下げて別れた。


「入れてくれておーきに。」
従業員はロビーに入るとくるりと後ろを向いた。
その自動ドア越しの新田の背に向ける視線は冷たく、口元には冷笑をたたえていた。



あとがき
明日菜がいないのでフラグが立ちにくい。
それと戦闘までいかんかった・・・。
まあ、気にしない。

今回も流し気味な話なので結構短い。
そして常々思うがなんて文面だ…。orz
嗚呼、キツイ、忙しい。
感想待ってます。

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