ナコト写本の契約者

第16話


「むっ・・、この気配は・・!?」
「マスター。」
話し合いを終えた刹那とネギはそれぞれ別の場所にてネギの場合正式には従者が感じ取ったものではあるが、互いに一瞬漏れた違和感を感じ取って即座にその場に向かって走り出した。

そして、走り出した先に互いの姿を見つけこのかが宿泊している部屋に入り込むと部屋の中では明日菜を除いて皆倒れこむように眠らされていた。

「神楽坂さん!
このかお嬢様を知りませんか!?」
刹那は部屋の中にこのかがいないのに気付くと、なにがあったかを問いただすために開け放たれた窓を唖然とした表情で眺めている明日菜に詰め寄った。

「あ・・、桜咲さん・・?
はっ!!そうだ!!
大変!!このかが猿の着ぐるみ着たやつに攫われちゃった!!」
明日菜は呆けた声を出すがすぐに我に返りあせったように言う。

ネギと刹那はそれを聞くと互いに顔を見合わせコクリと頷きあい、

「神楽坂さんは待っていてください。
お嬢様は必ず連れて帰りますから。」
追跡についてきそうな明日菜に一言忠告して二人は窓から飛び出した。


「なんなのよ・・いったい・・。」
一人残された明日菜は呟きを漏らしていた。


二人は窓から飛び出すと常人ではありえぬ速さで走っていると視線の先に駅の構内に入ろうとする着ぐるみの後姿を見つけた。

「「見つけた!!」」
二人は同時に叫び構内に駆け込むと終電が終わっていないというのに駅には彼らしか存在していなかった。

「人払い!?」
ネギはこの違和感の正体から相手のその思惑に気付いた。

「ええ、おそらく誘い込まれてますね。
気を引き締めてください。」
速度を緩めることなく互いの考えを口に出すと着ぐるみの敵が乗った電車に滑り込むように乗り込んだ。

「ネギ先生!
前の車両に追い込みます。」

「わかりました。」

「しつこいどすな・・。
ほな、これでもくらっときい。
お札さん。
お札さん。
ウチを逃がしておくれやす。」
着ぐるみの女は車両を隔てる連結部で振り返るとにやりと冷笑を浮かべて呪文と共に一枚の札を投げると大量の水が発生して車両を水で埋め尽くした。

「くっ・・!?」
「これは!?」

「ホホ・・。
車内で溺れ死なんよーにな。
ほな。」
驚愕に表情を凍らせたこちらことを一瞥して捨て台詞と共に前方の車両に歩いていった。

「がぼ・・、ラス・・ル・がぼぼ・ス・ル・マ・ぼご・テル・・・。」
呪文をもって状況を打破するべく詠唱しようとするがすでに相手の術中に嵌り、完成させることはできない。

“斬空閃”
無詠唱を覚えていないネギでは満足に魔法を唱えられなかったが、しかし状況を打破するために隣から放たれた真空の刃が水中を走り前方を隔てている壁を打ち破ると大量の水が排出された。

「み、見たかそこのでかザル女。
いやがらせはやめておとなしくお嬢様を返すがいい。」

「ハァハァ、なかなかやりますな。
しかしこのかお嬢様は返しまへんえ。」

ネギは問答をしている二人の会話になにか違和感を感じそこに思い至ると思わず言葉が漏れた。
「このか・・お嬢様?」
刹那だけだとしたらなんとか説明がつくが敵である着ぐるみ女にまで通じる共通の呼び名だとしたら何もないことなどあるはずがなかった。

刹那はネギの口からこぼれた言葉に反応して一瞬視線がそれた隙を見計らい着ぐるみ女はこのかを抱き上げて走り出した。

「あ、待て!!」
そして、再び追走劇が始まるとネギは追いかけながら先ほどの疑問を口にした。

「刹那さん、一体どういうことなんですか?」

「おそらく奴らはこのかお嬢様の力を利用して関西呪術協会を牛耳ろうとしているのでは・・・。」

「なるほど、たしかに彼女の力なら・・。」
力について思い当たる節があるためその言葉はすぐに納得できた。

「知っていたのですか!?」
まさか知っているとは思わなかった刹那は驚愕に目を見開く。

「ええ、真帆良に赴任してきたときに彼女のなかには強大な魔力が眠っていることに気付きました。
でもまさか狙われるほど周知とは思っていませんでした。」

「そうでしたか、しかし私も学園長も甘かったと言わざるを得ません。
まさか修学旅行中に誘拐などという暴挙に及ぶとは・・・。
しかし、関西呪術協会は裏の仕事も請け負う組織。
このような強行手段に出るものがいてもおかしくなかった・・。」
完全にこちらの落度ですと歯噛みした。

「後悔するよりも先にまずこのかさんを助け出しましょう。」

「はい。
むっ、ここにも人払いの呪符・・!?
やはり最初から計画的な犯行か!」
駅の改札に差し掛かるとまたも呪符が貼られそれは敵が用意周到で襲ってきたことを表していた。

二人は改札を飛び超えるようにして出ると式神にこのかを抱えさせて段上に待ち構えていた。

「ふふ・・、よーここまで追って来れましたな。
そやけどそれもここまでですえ。
3枚目のお札ちゃんいかせてもらいますえ。」
着ぐるみを脱いだ女は懐からひらりと一枚の呪符を取り出した。

「おのれ、させるか!!」
その意図を悟った刹那が飛び出すが、それはあまりにも遅かった。

「お札ちゃん。
お札ちゃん。
ウチを逃がしておくれやす。
喰らいなはれ、三枚符術京都大文字焼き!!」
止めるまもなく紡がれた呪は業火と成りて刹那の眼前で燃え盛った。

「うあっ・・!!」
あまりの熱に苦痛の声を上げ、炎に今にも触れそうだった刹那の体をネギは寸前で襟を掴んで引き寄せ階上の女を睨み付けた。

「ほほほ、並みの術者ではその炎は超えられまへんえ。
ほな、さいなら。」

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 吹け、一陣の風。
風花 風塵乱舞!!」
突如発生した暴風は膨大な熱量を一瞬にして消し去った。

「なんやて!?」
その場から立ち去ろうとしていた女は驚愕した。
戦力外だと思ってすらいたあの小さな魔術師が自らの出した巨大な炎を一瞬にして消し去ったのだから。

「あの程度の術でいい気にならないでもらえますか?
それにそろそろこちらの番です。
刹那さん!!」
挑発の言葉を投げかけ、隣で呆けている刹那に声を掛けた。

「は、はい!」

「従者は僕が片付けますので刹那さんはこのかさんをお願いします。」

「わかりました。
では行きます!!」
返事をすると瀑布の如き勢いで女に突っ込んでいく刹那を見送ると援護のためにネギは呪文を唱え始めた。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル  風の精霊20人、集い来たりて敵を切り裂け 魔法の射手 連弾・雷の20矢!」

女に迫る刹那を阻むべく二匹の着ぐるみのような式神が立ちはだかるが二匹はどこからか現われた光弾によって消え去った。

「っ・・!?」
女は一瞬にして消された従者にまたも驚愕し、迫りくる刹那の剣閃に思わず目を瞑るがガキンと鋼と鋼がぶつかり合う音がするだけで衝撃はいつまでたっても届くことはなかった。
それを不思議に思い、瞑っていた目をそっと開くとそこには二刀の刀をもった少女が対峙していた。

「どうも〜、神鳴流です〜〜。
おはつに〜〜〜。」
間の抜けた声に刹那は力が抜けそうになるが自身の斬撃を止めた太刀筋に驚愕した。

「え、お、お前が神鳴流剣士・・?」
敵を前にしているというのに思わず間抜けなことを聞いてしまっていた。

「はい〜〜、月詠いいます〜〜。
見たところ神鳴流の先輩さんみたいですけど、護衛に雇われたからには本気でいかせてもらいますわ〜。」
相も変わらず力が抜ける物言いだがその佇まいに隙は感じられなかった。

「こんなのが神鳴流とは・・・時代は変わったな。」
そう言って刹那は刀を鞘に収めて居合いの姿勢をとった。

「ふ・・、甘く見ると怪我しますえ。
ほなよろしゅう月詠はん。」
女はこのかを抱えたまま月詠の陰に隠れるようにして言う。

「で、ではいきます。
ひとつお手柔らかに〜。」
月詠は言い終わるや否や芸術的ともいえる踏み込みをもって刹那に斬撃を繰り出した。

「むっ・・。」
漏らした声と共に繰り出される剣を居合いで合わせ、金属音を鳴り響かせて受け止めた。

「え〜い。」
こちらが受け止めると同時に月詠は右手の長刀で刹那の野太刀を右側に押しやり刀を振るうスペースをなくし、左手の小刀を半身を回転させて突き出した。
刹那はそれを一瞬の見切りを持って野太刀から左手を離して月詠の左手を掴むようにして内側に逸らし、崩れた体制に追い討ちをかけるように死角から繰り出される長刀を野太刀を引くようにして防ぐ。
それは決定的な隙だった。
咄嗟の行動だったため刹那は無防備に右半身を曝してしまい、月詠は鍔迫り合いのような状態の刀を押し出すようにして反発させ、その勢いをもって体を一回転させ小刀で刹那の右脇腹を凪ぐようにして迫る。
それを野太刀の柄を振り下ろすことで刃を逸らし、今度は狙われたお返しとばかりに月詠の脇腹に蹴りを叩き込んで距離をとった。

「はぁっ、はっ、あ・・。」 荒い息をつきながら刹那は内心戦慄していた。
今の攻防はただ運が良かったに過ぎなかった。
柄で刃を逸らせたのは一種の賭けに過ぎず、最後の蹴りに至ってはほとんど偶然だった。

終始押されっぱなしだったのも自身の油断が招いた失態。
言い訳に過ぎないがその容姿や喋り方に惑わされたのもあって刹那の対応はほんの数瞬遅れてしまった。
だがそれ以上に対峙する剣士の技量は刹那の予測を上回っていた。
そして、自身の扱う野太刀では小回りの利く二刀相手では後手に回らざるをえなかった。

「げ・・ぇほ・・。」
蹴りによって吹き飛んだ月詠はさしたるダメージはないのか苦しそうな声を上げて立ち上がっていた。

「くっ・・、まだ立ち上がるか・・。」
悔しいが目の前の剣士をどうにかしなければこのかを救出することはできそうもなかった。

「ほほほ、なかなかやりますな。 だけど、これで足止め完了や。」
弾む声でそう言った彼女は一人の影が近づいていることにまるで気付いていなかった。

「いえ、これで終わりです。」
女はその声にギクリと体を震わせ首を後ろに向けるとそこには自身の背中に手をつき、少年は笑顔を浮かべていた。

「なっ・・。」

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 風の精霊11人 縛鎖となりて敵を捕まえろ。
魔法の射手・戒めの風矢!!」
超近距離で放たれた戒めの矢から逃れる術はなかった。
その衝撃によって弾かれたこのかが宙に浮かび上がり、壁に叩きつけられる寸前刹那は目の前の敵のことも忘れて飛び出しこのかを抱きとめた。
それは致命的な隙だった。
しかし、月詠はその必殺の機会に攻撃することなく懐から数枚の呪符を取り出し、矢によって捕らえられた女に呪符を貼り付けその体を抱きかかえるようにして即座にその場を離脱した。
ネギは一瞬の気が緩んだ隙を狙われ、そのあまりの早業に反応できなかった。

「雇い主さんを見捨てるわけにもいきませんし〜、今回は逃げさせてもらいます〜。」
月詠はそう言って無理やり戒めを解かれた影響で失神している女を担いだまま姿を消した。


「このかお嬢様!!」

「ん・・・、あれ・・、せっちゃん・・?
あー、うち変な夢見たえ・・・、変なおサルにさらわれて・・・。
でもせっちゃんやネギ君がたすけてくれるんや・・・。」

「よかった、もう大丈夫です。
このかお嬢様・・。」
刹那は安堵の息と共にまるで聖母のような笑顔を浮かべた。
その笑顔は思わず見惚れてしまうほど優しかった。

「よかったー・・・。
せっちゃん・・・、ウチのこと嫌ってる訳やなかったんやなー・・・。」
このかはその笑顔に応えるようににっこりと微笑んだ。

「えっ・・、そ、そりゃ私かてこのちゃんと話し・・・。
・・・し、失礼しました!」
突然刹那はなにかに気付いたように言葉使いを正し、このかから距離をとるとその場に跪いた。

「え、せっちゃん?」
その突然の態度の違いにこのかは戸惑いの声を上げる。

「わ、私はこのちゃ・・・お嬢様をお守り出来ればそれだけで幸せ・・・。
いや、それもひっそりと陰からお支ええ出来ればそれで・・あの・・。
御免!!」
言葉がどんどん小さくなっていき、耐えられなくなったようにその場を飛び出していく刹那をネギは傍観をやめて呼び止めた。

「刹那さん!!
あなたたちの間になにがあるのか僕にはわかりませんがあなたの本当の望みはあなたが望まない限りあなたの望むものは手に入りませんよ。」
その言葉は刹那の動きを止めるには十分だった。
しかし、刹那は再び動き出し振り向くことなく泣いているような後姿でその場を後にした。

「せっちゃん・・。」

「このかさん、人には誰しも何かしらの思いやしがらみがあります。
だから刹那さんのこと思うなら信じてあげてください。」
ネギは自分がなぜこんなことを言ったのかわからなかった。
もしかしたら当の昔に自分がなくしてしまったものを持っている二人を応援したかったのかもしれない。
そんな気がした。

「うん・・。」
悲しげに表情をゆがめるこのかの肩を叩き、励ますようににこりと微笑んで旅館へと戻った。


あとがき
なんか駄目駄目な文章・・・orz。
最初のほうのこのかの魔力の伏線使用。
そして、刹那の秘められた願いに気付くネギの助言。

戦闘シーンがわかりにくかったと思いますので説明。
要するに月詠は刹那の刀を受けた瞬間そのまま押し込んで刀を振るえなくさせて、もう一方の小刀で開いた半身を貫こうとしたわけです。
そして、その迫る小刀を両手で持っていた刀を片手にしてしょうていの要領で月詠の手首を打ち据え内側に逸らし、今度は左手を離したことによって野太刀が軽くなったので長刀を引き戻して即頭部を切りつけたのを受け止めたというわけです。
くわえて、そんな無理やり回避をしたせいで体勢が崩れてしまい、それを好機と見た月詠は鍔迫り合いの状態の長刀を反発させることによって生じたエネルギーをもって回転してがら空きになった脇腹を小刀で切りつけよとするのですが避けられないと判断した刹那は野太刀の柄で防ごうとした。
そんでもって、思わぬ方法で防がれた月詠さんの体勢が崩れたのでちょうどいいところにあった腹を蹴りつけた。
そんなわけです。
説明もわかりにくくてすいません。
うまく想像していてください。
剣戦闘はほとんど経験がないのでうまくかけませんでした。
トンファーとか使えるので二刀の方はなんとか感覚がわかるのですが、野太刀クラスの長物はよくわかりませんw
棒術なら以前友人に教えてもらったんですがね。
まあ、あれは槍みたいなもんなので参考にならないし・・・。
なんというか刹那の戦闘シーンはキツイ。

まだまだエセルドレーダは温存中。
つーか、いつもながらヒロイン格のくせに影薄いのぅ・・・。
彼女はあくまで切り札で裏方に徹します。
意外なところで切るつもりです。

どうでもいいが、月詠の喋り方がどうしても永遠のアセリアのハリオンと被る・・・。

今回も文章がテキトーなのは我慢してくださるとうれしいです。
特に最後らへん。

それでは。
戦闘シーンはこれでも十分だとか、もうちょっとわかりやすく!!、まあ悪くないんじゃない?、駄目すぎ・・などのご意見があったらweb拍手にお願いします。

SS戻る

SS次へ