ナコト写本の契約者

第18話


修学旅行3日目 朝
その日は朝から敵の襲撃に備えるために刹那と相談をしていた。

「いきなりで申し訳ないのですが、僕は関西呪術協会の長に親書を渡しにいかなくてはならないのでこのかさんの護衛に回ることが出来ません。
なので、護衛の方は刹那さんにお任せきりになってしまいますが大丈夫でしょうか?」

「問題ありません。
先日のような不覚はとりません。
いざとなればお嬢様のことはこの命を懸けてお守りしますのでお任せください。」

「ありがとうございます。
無用の心配だとは思いますが、くれぐれも深追いはなさらぬようにお願いします。
いざとなれば朝倉さんを頼ってください。
彼女は一応僕の協力者ですから。」

「朝倉が・・ですか?」
意外な名前が出たせいか刹那は首を傾げる。

「ええ、彼女は只者じゃありませんよ。
エセルの殺気に当てられながら僕らに交渉してくるくらいですからね。」
昨夜の様子を思い出したのかネギは軽く笑った。

「なんでそんな状況になったかがものすごく気になりますけど・・・。」
なぜか刹那の額に冷や汗らしきものが流れているっぽいのは気のせいだとしておくことにして流した。

「いざ、襲撃があった場合はすぐに知らせてください。
僕はすぐにはいけませんが、エセルを空間転移で助けに行かせますので・・。」

「ありがとうございます。
それではそろそろ出発の時間ですので失礼します。」
そう言って刹那は踵を返してその場から立ち去ろうとする背中に向けて言った。

「自分の命を懸けてでも守ろうとするのは構いませんが、あなたがいなくなることで悲しむものがいることは決して忘れないでください。」
その言葉は聞こえていたのは確かだろうが刹那は振り向くことなく歩いていった。
ネギは刹那を見送りながら“あなたは僕とは違うんですから”と心の中で付け足す。


「譲れないものか・・。」
一人残されポツリと呟かれた言葉には万感の<思いがこもっているように感じた。




あれから出かけようとするところを見つかり一緒に行こうと誘う生徒をこれから仕事がありますからと言ってやんわりと断り電車に乗って単身で本山に向かった。

「ここが関西呪術協会の本山・・。」
鳥居を見上げて足を踏み出そうとすると宙から光がネギに近づき、光は弾けて人型を形作った。

「大丈夫ですか、ネギ先生。」
人型は刹那をそのまま小さくしたような姿だった。

「え、と、もしかして刹那さんですか?」

「はい、連絡係のようなものです。
心配で見に来ました。
ちなみに“ちびせつな”とお呼びください。」

「わかりました。」
ネギは日本の魔法について知識がないことからこの増援は心強く思えた。

「この奥には確かに関西呪術協会の長がいると思いますが、東からの使者であるネギ先生が歓迎されるとは限りません。
それに、ネギ先生ならばわかっていると思いますが先日のやつらの動向がわからない以上罠などにも気をつけてください。」
カモは役どころをとられたせいかちびせつなを恨めしそうに睨み付けていた。

「わかりました。
それでは行きましょう。」
そう言ってネギは本山に向かって歩き出した。
その瞬間エセルドレーダ空中より現われ、
「あ、マスター、お待ちくださ・・・。」
制止の声を上げるが、その言葉は一歩遅く、ネギは鳥居の中に足を踏み入れてしまった。

「え・・?」
その瞬間鳥居の一部が光り、魔力の流動を感じ取った。

「すみません、気付くのが遅れました。」

「これは?」

「結界です。
閉じ込められてしまいました。
術式体系が違うため正確な分析は出来ませんがおそらく一種の牢獄のようなものだと・・・。」

「ありゃ・・、ごめん。」

「いえ、では私はこの結界の基点を探してまいります。」

「うん、お願いするね。」
空気に溶け込むように消えたエセルドレーダから視線をはずしこれからどうするべきかを考える。
ふと変な感覚がした。
変なというよりもどこからか見られている感じがする。
こんなとき自分に気配察知の能力がないのが悔やまれた。

「ちびせつなさん、ごめんなさい。」

「いえ、魔法体系が違うことを失念していた私も迂闊でした。」

「そうだね、魔法技術が全然違うから驚いたよ。
西洋魔術には式神みたいな魔法はないからちょっと羨ましいんだよね。」
苦笑いのような笑みを浮かべながら言う。

「そうですね。
西洋魔術の方は自然に働きかけるような魔法が多いみたいですが・・。」
刹那は本業は剣士なだけあって魔法のことにはあまり詳しくないようだった。

そんなこんなで結界を解除するまで何もやることがないのでちびせつなと他愛もない会話を続けていると、前方からドスンと音がして土煙が舞った。

「お楽しみなところ悪いな。
あんた結構強いらしいやないか。
暇ならちょっと遊ぼうや。」
ニット帽をかぶった少年はニィっと好戦的に笑って挑発した。

「仕方ありません。
どうせ戦わなければこの先には進めないのでしょうし・・。」
ネギはいかにもめんどくさいという態度をとりながら魔力で体を強化した。

「物分りは結構早いやないか。
一応名乗っとくで、俺は犬上 小太郎や。」

「僕はネギ・スプリングフィールド。
では・・。」

「始めましょうか!!」
「始めようや!!」
二人の声は同時に響き、二人は合わせたように飛び出した。
小太郎は傍らに控える大きい蜘蛛、恐らく式神と思われるものと一緒に突っ込んでくる。
対して接近戦が苦手なネギがそれに応じたのは彼らの力を正確に見抜いていたからだった。

「な、なんやこの障壁は!?」
そして、その分析に間違いはなく、事実彼の力ではネギの周囲に張り巡らされた強固な障壁を破ることは出来なかった。
そこには歴然たる自力の差というべき壁が立ちはだかっていた。

「無駄ですよ。」
ネギはそう言って小太郎を一瞥すると一緒に向かってきた蜘蛛にこぶしを叩きつけて式神を札に戻した。

「へ、いうやないか。
正直なめとったわ。
ならこっちも本気を出してやる。」
小太郎は式神がやられたのもあってかその雰囲気を変える。
そして小太郎が気合の声ともに体が何か別のものに作り変えられていった。

「獣化!?」
カモが驚きの声を漏らして言い放つ。

「どうや!
これが俺の本気や
さあ、もっとやりあおうぜ!!」
言うが否や小太郎は眼前から消え去ると同時に背後からみしりと障壁がきしむ音がした。

「なっ!?」
ネギにはその動きを視認することが出来なかった。
動いたと思ったときには後ろに回られている。
そして、一撃一撃が恐ろしく重くもはや障壁が破られるのも時間の問題に見えた。

ただし、それは何もしなければの話ではあるが・・。
ネギが黙っているはずもなく、気付けば即座に行動に移っていた。
障壁もこのままではもたない。
ならば障壁が破られないいまのうちに手を打てばいいだけの話だった。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 大気よ 水よ 白霧となれ 彼の者らに一時の安息を。
眠りの霧。」
本来は眠らせるためのこの魔法を唱えた意図は別にあった。

「へっ、こんなもん効くかよ!」
どこからか声が聞こえる。
だがそれは唱える前から予測していた結果。
この霧はただの目くらましに過ぎないのだから・・。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル  風の精霊60人、集い来たりて敵を切り裂け 魔法の射手 連弾・雷の60矢!」
動きが速いのならばそれを上回る攻撃をすればいいだけだった。
ネギはそう考え、広範囲にわたって動き回る雷の矢を解き放った。

「く・・っ。」
小太郎は苦悶の声を上げながらたちこめる霧の中を不規則に動き回る矢は思った以上に厄介だった。
今は気や、護符を使って払いのけているとはいえ、それももはや時間の問題。
くわえて、矢を払うのに必死な小太郎は気付いてはいなかった。
この放たれた矢すらも単なる陽動でしかないことを・・・。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル  闇夜切り裂く一条の光 我が手に宿りて敵を喰らえ。
白き雷!!」
そう、この霧は矢を隠すためだけではなく、本命の一撃を紡ぐ時間稼ぎをする役割も担っていたのだった。
放たれた雷は小太郎に迫りくる矢ごと呑み込み小太郎に直撃した。

「かっ・・く・・っ・・。」
小太郎は身体をびくびくと震えさせながらも目だけはネギをにらみつけて戦意を失っていなかった。


一方、戦闘を見守っていたちびせつなは驚きに目を丸くしていた。
実力が高いとは思っていいたがここまでとは・・と。
ありえぬほど強固な障壁、戦闘中の対応や応用。
この年にしてこの気力と才気はどこから来るのだろうと感心していた。


「マスター、結界の基点を見つけました。」
戦闘が終わるのを見計らったように結界の調査に行ったエセルが帰ってきた。

「ご苦労様、じゃあ行こうか。」

「ま、まて・・。」 声だけは出せるようになったのか小太郎は身を振るわせながらネギを引き止めた。
「今回は負けたが次は絶対に倒す。」

「待ってるよ。」
ネギは短く言って後に好敵手になりうる存在に背を向けて歩き出した。
彼はこの先強くなるだろう。
このまま慢心していれば近いうちに敗北する可能性すらある。
ネギは小太郎がこれから先自身を更なる高みに上げてくれることに期待していた。



視点 小太郎
「完敗か・・。
次は絶対勝ったるで!」
小太郎は元の少年の姿に戻った状態で地に寝転びながら再戦を誓った。

「待ってろよ、ネギ。
次こそおまえを倒してやるからな!」
その誓いは誰にも聞かれることなく虚空に消えたがそれはたしかに小太郎の胸に刻まれていた。
彼らの再戦はそう遠い未来ではないだろう。
そのとき最後に立っているのはどちらになるのか発展途上の彼らでは今の時点で予測は不可能だった。

互いを糧に彼らは強くなる。
彼らは望んでいた。
切磋琢磨し、競い合うライバルの存在を彼らは望んでいたのだ。
そして、望みが叶った今、近い未来に再び出会い彼らは急速に強くなっていくことになるのだった。



あとがき
今回は結構いろいろとスルーさせてもらい、かつ流しまくりな回でした。
そして、最近は駄目なデフォルトになりつつありますが、見直しはまったくしてい
ません。
誤字脱字?
そんなもの知ったこっちゃありません。(おい
やっと小太郎登場。
ライバル設定。
ちょっと終わり方を少年漫画風にアレンジしてみた。
初戦はあっさりネギの勝ち。
まあ、こんなもんでしょって感じで。

もう少しで明日菜と契約できそうだ。
だいぶ前からそのシーンは書いてあったのでやっとな感じがします。
つーか、この前気付いたのだが、なんだかんだで通算20話を突破していました。
なんか俺ってすごくない?(笑)

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