ナコト写本の契約者

第21話


少し時を遡り、刹那と月詠が対峙していた頃・・。


エセルドレーダはこのかの手をとり走っていた。

「あの・・、エセルドレーダさん。
はぁ・・は・・、どこへ行くんで・・か・・。」
このかは着物のを着ているせいか必要以上に体力を取られ息を切らせていた。

エセルドレーダはそれに答えず追いかけてくる式神を打ち払いながら考えをめぐらせていた。
このままでは時間の問題であり、何よりもこのかの体力がもたない。
かといって止まれば相手の思う壺だった。

「仕方ありません。
ここに隠れましょう。」
そう言って指したのは城の入り口だった。
本来なら追われているときに逃げ場のないところに逃げ込むなどというのは愚策であるが、どう足掻いても追いつかれてしまう危険を孕んでいるのであれば何か行動に出たほうがいいとの考えがあった。


階段を上がり、ふすまを開けると見計らったように足元に矢が刺さりエセルドレーダは咄嗟にこのかの手をとりふすまから飛び退った。
「っ・・。」
このかは突然手をつかまれたことに痛みで顔をしかめたが今まで自分たちがいたところに数本の矢が刺さっているのを見て顔を青ざめさせていた。

「新入り!
このかお嬢様に刺さったらどうするんや!」
部屋の奥からは予定外の行動だったのか驚きに声を上げていた。

「大丈夫ですよ。
あの護衛の女性は只者ではありません。
それにこれで退路は絶ちました。」
怒鳴り声を受け流してゆっくりと回り込むようにしてふすまの前に立ちふさがった。

「まあええ、ようこそこのかお嬢様。
月詠はんはうまく追い込んでくれたみたいやな。」
部屋の奥に視線をやると黒髪の女性が式神をはべらせていやらしい笑みを浮かべていた。

情けないことに知らず知らず城内に追い込まれていたことに気付いてエセルドレーダは表情に出さず内心で舌打ちした。
ここで魔術を使えば城の崩壊に繋がり、加えてこのかの前ということもあって先手を打つこともできない。
しかも、ふすまの前に控える少年は只者ではない。
一瞬の油断も許されない。
白髪の少年も油断なくこちらを見据え、なにか不穏な動きをすればすぐにでも仕掛けてくることがわかる。

それに加え、昔ならともかく今のエセルドレーダに二人分の空間転移をする魔力はない。
ページが抜け落ちたことによってかなりの制限を受けているのが実情だった。

「やむを得ません・・、はっ・・。」
一般人に露呈する恐れがあるがエセルドレーダは覚悟を決め魔術式を展開させバレーボールほどの大きさの魔力弾を解き放つ。

「下がってくだ・・・!?」
白髪の少年は一歩前に出て魔力弾をレジストしようと手を翳すが魔力弾はその手に当たる前に弾けて辺り
を光で覆いつくした。

「行きますよ。」
「え?・・え??」
今のうちにといったようにエセルドレーダが混乱するこのかの手をとって階段を駆け上がった。



「く・・、嘗めた真似してくれはるな。」
光が収まっても未だちかちかする目をこすりながら黒髪の女は悔しそうに呟く。

「どうせ、下にはいけません。
おそらく屋根の上に出るつもりでしょうから逃げられる前に急ぎましょう。」
位置的に自分たちの後ろにある階段を下りることは不可能。
ならば上に行くほかないと考えられた。


二人が屋根の上についたときにはもう既に追っ手は追いつき始めていた。

「悔しいですが逃げる暇はなさそうですね。」
そう言ったエセルドレーダの視線の先には式神が巨大な弓を構えこちらを狙っていた。

「聞ーとるかお嬢様の護衛、桜咲刹那。
この鬼の矢がお嬢様を狙っとるのが見えるやろ!
お嬢様の身を案じるなら手は出さんとき!」

「そこの女、私が黙ってさせると思っているのですか?」

「キミの相手は僕だ。
少しでも動けば・・。」
白髪の少年はそう言ってエセルドレーダと対峙する。
「くっ・・。」

「そーいうことや。
新入り、そいつの相手は頼むで。」

「エセルドレーダさん・・、これって・・・CGと・・ちゃうよね・・やっぱ。」
ここまで追い詰められているのにこんなのんきな言葉が出るこのかに対していらつきを感じるが取り乱さないだけましだと考えエセルドレーダは怒りを納めた。

「こんな状況だというのにキミは随分落ち着いているんだね。」
白髪の少年は気付いたよう言う。

「だって、せっちゃんがなにがあっても守るっていうたんや。
せっちゃんが助けてくれるて・・。」

「困ったときは人頼み、信頼といえば聞こえはいいが結局は他者を犠牲にしているのには変わりはない。
このままではキミがいずれ桜咲刹那を殺すことになる。
それに気付きもしないなんて、つくづく人間とは度し難い生き物だ。」
少年は失望したという風に吐き捨てた。

「その意見には同意です。
人の愚かさはいつの時代、どの世界でも変わらない。」
エセルドレーダはその言葉に何か思うところがあるのかその軽口に答えていた。

「っ・・・。」
二人の辛辣な言葉にこのかは涙をこらえた。

そんなとき突然の強風が吹き、このかは飛ばされそうになり屋根の上でたたらを踏んだ。
そして、その動きに反応して式神は矢を放つ。

「ぐっ・・!?」
矢が刺さる瞬間、このかの前に刹那が立ちはだかり矢は刹那の肩に突き刺さり、衝撃を殺しきれずに刹那は屋根から落下した。

「桜咲刹那!!」
「せっちゃん!!」
エセルドレーダは矢が刺さって落ちた刹那に向かって叫んで助けに行こうとするがまたも白髪の少年が前に立ちはだかった。
そして、こうしてる間にこのかが落ちた刹那を追いかけるようにして屋根から飛び降りた。

「行かせませんよ。」

「くっ・・。」
仕方なく魔術式を展開しようとしたそのとき膨大な魔力の本流が巻き起こった。

「あれが・・。」
「なっ・・!?」
白髪の少年とエセルドレーダは対峙しているのも忘れて驚きに目を見開いた。

「残念ですがここは撤退することにします。
また会いましょう。」
白髪の少年は戦闘中だというのにエセルドレーダに背を向けて歩き出す。
しかし、その背に魔法を打ち込む隙が見つからずただ見送ることしか出来なかった。
エセルドレーダはこのかたちと合流することにして空間転移で屋根の上から消えた。



あとがき
ちょっと、最後の方があっさりしすぎですが勘弁願います。
白髪の少年が悪役過ぎな気がする・・。
エセルも性格悪いな〜なんて思う・・。
まぁドンマイ!!

実際、他力本願なこのかがむかついた管理人でした。
仮にあの時魔法が発動しなければ刹那は死んでいたんですから・・。
白髪の少年の言葉も一応複線の一つです。

では感想待ってます

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