ナコト写本の契約者

第29話


「ネギ!!」
明日菜はネギの身体を揺らさぬように触らずに呼びかけていた。

「ひ、ひでぇ・・。
こんなになるまで戦うなんて・・。」
カモは重症を負いながらも敵を倒し、倒れ伏したネギの覚悟を改めて認識した。

「心音が微弱です。
このまま手を施さねば数刻で死に至ります。」

「ど、どうにかならないの!?
エヴァちゃん!」
明日菜は目に涙をためて目に見えて取り乱していた。

「わたしは不死だから回復魔法は苦手なんだよ。
そうだ、貴様はどうにかならんのか!?」
エヴァンジェリンはエセルドレーダに視線を移した。

「悔しいですがここまでの怪我になるとどうにもできません。
それに、これでも私がこれ以上の出血や、悪化を防いだ状態なのです。
この状況で他の魔力行使を行えばマスターの怪我は悪化してしまいます。」

「くっ・・、応援を待っていたら兄貴が死んじまう!
どうすりゃいいんだ!?」
カモは焦りや心配で頭が回らない。
それ以上に親友であり、恩人のネギが危ないというのに何もできない自分を殺したくなった。

「なんだよ・・これ。」
そして、その場にいる唯一の一般人である長谷川の表情からは血の気が引いて真っ青で今にも吐きそうになるのを必死にこらえていた。
正直な話、誰もが目を背けたくなる光景を見て正気を失わないだけマシだった。


「あんな・・、明日菜、エセルドレーダさん・・。
ウチ・・・、ネギくんにチューしてもええ?」
誰もがこの先の最悪な想像に言葉も無く顔を俯かせていたとき突然場の空気を切り裂くようにこのかの声が辺りに響いた。
もっともその内容は一部のものでしかよくわからないものではあったが・・。

「え?
な、何言ってんのよこんなときに。」
明日菜はこんなときに突然なにを言い出すんだと怪訝な表情を浮かべる。

「あわわ・・、ちゃうちゃう、あ、あのパ・・パクテオーとかいうやつや。」

「え?」

「みんな・・、ウチせっちゃんに色々聞きました。
・ ・・今日は本当にありがとう。
今日はこんなにたくさんのクラスのみんなに助けてもらって・・ウチにはこれくらいしかできひんから・・。」
このかは己の感謝の気持ちを偽り無く正直に紡いだ。

「・・そうか。
仮契約には対象の潜在力を引き出す効果がある。
このか姉さんがシネマ村で見せた治癒力なら・・・。」
カモはこのかの意図に気付くと同意を求めるように刹那に話を振る。

「ハイ。」
刹那はもはや説明は不要だといったように神妙に頷くとこのかに行動を促した。

このかはカモが書いた魔方陣の中のネギに歩み寄ると自身が血に塗れるのも構わず膝を突くとその血に染まった唇にそっと自分の唇を合わせると、魔方陣は輝き一枚のカードが宙に浮かび上がると光は当たり一面に広がり、光が辺り一体を優しく包み込み本山で石化している者たちまでも癒した。

「・・こ・・のかさん?
よかった、無事だったんですね・・。」
皆が無事を祈る中、ネギはゆっくりとまぶたを開くと力なく微笑んだ。

「ネギ!!」
「マスター!!」

「明日菜さん・・、エセル・・。
あれから一体どうなったんですか?
それに僕はなぜ生きているんだ・・。」
ネギはあの時確かに死を覚悟していた。
それほどにあの時負った怪我は酷かった。
身体を見渡してもあの時負った怪我の一部すら存在していないのだから驚くのは無理もない。

「ネギ・・。」
周りはネギが助かったことで歓声を上げている中で明日菜は呟きと共に一筋の涙を流してネギの胸に縋りついた。

「明日菜さん?」

「あんた無茶しすぎなのよ・・。
このかが助かってもあんたが死んじゃったら意味ないじゃない。
お願いだからもっと自分を大切にしてよ・・。」
明日菜の声は次第にかすれていき、うまく聞き取れなくなり始めたがその声に含まれる感情は言葉以上に複雑なものが感じられた。


「すみません。 でも、明日菜さんも僕のこと“なんか”気にしなくていいんですよ。」
それは零れ落ちた彼の真実。
だが、その言葉を聞いて明日菜が素直に頷くはずが無かった。

「“なんか”ってなによ!!
あんた全然わかってないじゃない!!
私たちがどんなに心配したと思ってるのよ!
このかだって自分を助けた代わりにあんたが死んじゃってたらどうするのよ!!」

「・・・。」
ネギは思う。
この人は本気で僕のために怒ってくれている。
だけどその心配は自分にとって過ぎたるものだ。
僕に彼女の純粋で綺麗な心を受け取る資格なんてあるはずがないのだから・・・。

「明日菜・・。」
「明日菜さん・・。」
このかと刹那は呟きを漏らす。
他の者もネギの危うさには気づいていたためその様子を黙って見守っていた。

「大丈夫ですよ。
僕は“死ねませんから”。
僕のせいで死んだ人たちの敵を殺すまでは絶対に死ぬつもりはありませんよ。」
顔を埋めて泣いている明日菜からは見えないが、ネギの表情は10歳のそれではなく、まるで疲れ果てた老人のように見えた。

「そうじゃない。
そうじゃないでしょ!!
なんであんたはそんな考えしかできないのよ!!
あんたはまだ10歳なのよ?
それなのになんで敵とか、殺すとか言えるのよ!!
もっと自分の幸せを考えてもいいじゃない・・。」
かすれた声でネギの胸に縋りつく明日菜は幼女のように泣きじゃくった。
これは明日菜自身すら思い出せないことだが、彼女のトラウマというべき出来事に触れたせいでもあった。

「ごめんなさい。」
ネギは泣きじゃくる明日菜の頭を撫でて優しく明日菜の言葉を拒絶したのだった。

「あーもう!!
あんたはもう少し素直になりなさい!!
なれないのなら私が矯正してやるわ。」
今の今までしおらしく泣いていた姿はどこにいったのか明日菜はぐっと涙を堪えると突然起き上がって叫んだ。

「矯正・・?」

「そうよ!
じゃ、ま、これからもよろしくね、ネギ。」
明日菜はニカリと笑い、言外にこれからもパートナーとして付き合ってやるといった。

「はい。」
そんな彼女たちの様子を見守っていた一同は一件落着した様子を見て微笑むのだった。




あとがき
明日菜ヒロイン化計画発動中というわけではありません。
さぁ、そろそろきつくなってきたぞ
飛び飛びで書き溜めがあるからあんまり困らないけどね。

やっぱりこのネギは衛宮士郎に似ている気がする・・。
でも仕方ないかな?
普通5歳ごろという多感な時期に自分のせいで何人も死んでしまったら狂わないわけが無いし。

それでは感想お待ちしています。
では〜。

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