ナコト写本の契約者

第34話


ある日のこと、訓練のためにネギと龍宮は誰もいない森の中で対峙していた。

「さて、今日の訓練を始めようか。
前回は心構えと近接戦闘における動き方について教えたけれど、今回はより実戦的なことを教えよう。
まず、キミも知っているように実戦において自分の有利な状況や万全の装備で戦えることのほうが少ない。
それに加えて、相手の数もわからない状態での戦闘は避けるのが常套手段だ。
しかし、時には逃げられない状況もあるだろう。
その場合は周りにあるもの全てを利用してでも生き残る方法を模索する。
周りに何があるか、どのような地形か、自分が何を持っているか。
それらを把握するだけで大分違うはずだ。
それじゃあ、まずはやってみようか。」
龍宮は重要な点を簡潔に述べるとかかって来いというように手招きをした。

「はい!」
ネギは返事をすると同時に魔力で強化した身体で龍宮に向かって殴りかかる。
だが、龍宮はその拳を手馴れた動作で軽くかわして突き出た腕を掴んで引っ張り、その身体に拳をつきたて吹き飛ばした。

「攻撃が単調だ。
いくら早くても直線で突っ込んだら意味がない。
攻撃のときは相手に動きを読ませるな。
なんのための障害物だ。
正面から戦うだけが戦いではないぞ。」
龍宮は容赦なく言い、吹き飛ばされたネギも小さく咳き込みながらも再び構えた。

そして、ネギは言われたことを吟味して考える。
読まれないためにはどうしたらいいか。

導き出された答えは簡単だった。
障害物を利用する。

ネギはその結論に達した瞬間、今度は真正面に突っ込まず、木の影に身を潜ませ、驚異的なスピードで木の影から影へと移り始める。

「正解だネギくん。
キミはこれから先格上の相手と戦う上でそういった戦い方が必要となってくるはずだ。
相手が自分よりも強いなら、虚を突き、隙を作り、策を練る。
そうやってきたから私は生き残れたんだからね。」
幼少の頃より本物の戦場に身を置いていた彼女はそういった戦いこそが生き残ることに必要だということが身に沁みてわかっていた。
そうやって戦われることで格上が格下にやられることすら珍しくない。
その事実を証明するかのように一桁の年の頃から龍宮は大人との戦いから生き残っているのだから・・。

龍宮の言葉が途切れ、数秒の間が空くが、その空白の瞬間を打ち壊すようにネギが一本の木から飛び出し、龍宮の背後から迫った。
だが、龍宮はまるでわかっていたというように軽やかに身を翻すと、勢い余ってすれ違うネギの背中に蹴りを打ち込んだ。

「今度は様子を見すぎだ。
時間を掛ければ掛けるほど相手へのプレッシャーになるが、同時に相手に場所を特定させ、考える時間を与えるということも忘れるな。」
倒れこむネギに容赦なく言葉を浴びせる。

「ぐ・・、は、はい。」
軋む身体を何とか起こして立ち上がるが、彼はたった二発の打撃でよろめく自分の不甲斐なさを呪う。
実際は立ち上がれるだけすごいのだが、高みを目指す彼にとって意味のない慰めだった。

「さぁ、次だ。」
再びネギは木の影に入り込み、木の影で石を拾って龍宮に投げて間合いを詰めるが、その瞬間ネギは自分がはめられたことに気づいた。
いつの間にか龍宮の立っていた場所が変わっていたのだ。
その場所は木と木の間隔が狭まり、龍宮に飛び掛るのも、逃げるのも正面以外は難しくなっていた。

「石を投げて間を置くという着眼点は合格だ。
だが、まだ甘いな。
自分と相手の立ち位置や地形も把握した方がいい。
でないと・・ふっ!!」
龍宮は既に正面からしか攻撃できなくなっているネギを真っ向から投げ飛ばした。
仮に、ネギが避けようとしても無駄だっただろう。
なぜなら誘い込まれた時点で勝負は決まっていたのだ。
逃げ出すには背中を見せなければならない。
バックステップで後ろに下がるとしても、そこには木の根が密集しているため、慣れない者では転んでしまうのがおちであった。

「こうなるというわけだ。
どうだい?
これが地形の使い方というやつだ。
これは一例に過ぎないが、やり方次第でいくらでも有利な状況が生み出せるというわけだ。
本来、私の場合は障害物を利用して射撃というのがいつものやり方で、徒手空拳で戦うということ自体あまりないのだがな。」
でも、おもしろいものだろう?と言いながら龍宮は腕を組んで未だ倒れているネギを見下ろした。

「くぅ・・、これでこそ龍宮さんに頼んだ甲斐があります。」
ネギは木に手をついてなんとか立ち上がるが、未だ衝撃の余韻が抜けていないのか、その身体は小刻みに震えていた。

「ほう、もう立ち上がれるのか。
キミの身体は随分と頑丈なようだね。」

「魔法の恩恵ですよ。」

「だが、それもキミの才能だ。
誇っていい。
よし、そろそろ訓練を再開しようか。」
龍宮は軽口を叩きながらもネギの回復の度合いを見ていたのか震えが止まったことを確認して合図の声をあげる。

「はい!」
そして、ネギは訓練を再開し、この後も教えられたことを考慮しながら何度も挑み、日が暮れるまで続けるのであった。


あとがき
龍宮との訓練風景。
ちなみに、作者の経験も交えて書いてますw
作者は実は何度も山篭りや、野宿をしたことがあるので少しは上手く書けたと思います。
いや、でも山は本当に怖いですよ。
足とられて崖から落ちて死に掛けたこととかあるし、冬山で凍傷になりかけて死にそうになったこともあるわで散々でした。
なんというか、若さって怖いねw
でも楽しかったのは確かです。
機会があったら皆さんも山篭りをしてはいかがでしょうか。
その際はくれぐれも毒草やきのこには気をつけてください。
一度間違えてトリカブト食いそうになったことあるし・・・。

なんかどうでもいいことばかり書いてすみません。
それではまた。

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