注意:今回はコミックス派の人にはわからない微妙なネタバレが含まれています。
   ネタバレ?
   ふざけんな!!
   と、思われる方は最新刊に収録される予定の161時間目を読んだ後にでも閲覧した方が良いです。
   仮に読んで不快になっても私は一切の関知はいたしません。
   それでは読まれる方はどうぞ。


ナコト写本の契約者

第40話

side 長谷川
長谷川は浴場でなにか水のようなものに飲み込まれそうになった。
どうやって回避したのかはわからないが、長谷川は飲み込まれず、近くにいた古と朝倉は飲み込まれ、他に誰もいなくなった浴場には彼女と一人と呼ぶには小さすぎる人形のような少女が対峙していた。

「一人逃がしちまったか。」
可愛らしい容姿とは裏腹にちっと舌打ちして悔しがる表情は邪悪極まりない。
長谷川はその様子を見て、いつも肌身離さず持っていたカードを額につけて叫んだ。

「助けてくれ!」

「あ、逃げる気かよ!!」
少女は慌てて触手のような手を伸ばして拘束しようとするがそれは紙一重で遅く、伸ばした手は空を切るのだった。



side ネギ

それは突然の出来事だった。
“助けてくれ!”
いつものように自室で仕事をしていると、突然ネギの頭の中に長谷川の声が響き渡った。
その瞬間、ネギは淀みのない動作で懐からカードを取り出して呪文を唱えた。

「召還、長谷川千雨!!」
その声に反応してカードが光りだすと何もない空間に長谷川が現われた。

「うお・・、ってあれ?」
呼び出された長谷川は訳がわからないといった様子できょろきょろと周りを見渡し、怪訝な表情を浮かべていた。

「ご無事でしたか・・。」
ネギは召還が間に合ったことにほっと胸をなでおろす。

「どうなってんだこれ?」

「声が届きましたので召還させていただきました。」

「この前言ってたのはこのことかよ。
こりゃあ、マジでファンタジーだな。
まぁ助かったよ先生。」

「ところで、何があったのですか?
あ、とりあえず、風邪ひきますのでこれでも着ててください。」
ネギは思い出したかのようにローブを長谷川に手渡した。

「ん?
風邪ひくって・・・、ぎゃーー!」
長谷川は自分がどんな格好だったかを思い出すと手渡されたローブをふんだくって羽織った。

「それで、どうしたんですか?」

「って、て、てめえはむかつくくらい冷静だな・・。」
自分の裸を見たというのに表情すら変えないネギに女性としての尊厳が傷ついたのか、長谷川は口元をひくつかせて悪態をついた。

「10歳の子供にリアクションを求めないでくださいよ・・。
それともここは何か反応したほうが良かったんですかね?」

「そもそもそういう反応が子供じゃねえんだよ。
それに、てめえはただのガキじゃねえだろ。
まぁ、反応されたらされたで困るけどよ。」
長谷川はふんと顔を逸らすと、今度こそゆっくりと何があったかを語り始めた。

「私にも何があったかはよくわからねえんだけどよ。
変なちびっこいヤツが突然水みたくなって私は運良く飲まれずに済んだが、変な水みたいなやつが古と朝倉を飲み込んでいったんだよ。
そんで私は吸い込まれる前にてめえに助けを求めたって訳だ。
あいつらが何処に連れてかれたかはわからねえけど助けに行ってやんなよ。
まぁ、行くか、行かないかはてめえの自由だけどな。
だけど、てめえの答えは決まってんだろ?」

「はい。
長谷川さんを一人で置いて行くのは心苦しいですが、助けに行ってきます。」
どこに連れて行かれたかなどは、探査の魔術を使えばわかることもあり、それにご丁寧にも先ほど不快な念話が届いていた。

“キミの仲間を預かった。
世界樹前の広場で待っている。”と・・。

念話は一方的に消えたが長谷川から聞いた話もあわせると仲間であることは間違いなさそうであった。

「気にすんなよ。
あ、そうだ。
帰りになんか着るもん持ってきてくれねえか?
この格好じゃ外出れねえし・・。」
そう言った長谷川の格好は裸にローブを羽織っただけの扇情的な姿であった。

「わかりました。
一応、ここにあるものは自由に使って構いません。
お風呂も入るならばこの部屋に備え付けてありますから。」

「助かる。」

「では、行って来ますので後はよろしくお願いします。
ないとは思いますが、くれぐれも来客などには気をつけてください。」
見つかってクビになるのはごめんですから・・。
と、軽口を吐きながらネギは外へと飛び出して行った。





ネギは上空を飛びながら世界樹の前に立っている一人の男を見つけ、先制攻撃だと言わんばかりに魔法の矢を30矢ほど解き放つが、矢は男に当たる瞬間目に見えない壁のようなものに阻まれ霧散した。

「弾かれた!?
いや、あれは無効化!?」
どこか見覚えのある現象に首を捻りながらもネギはゆっくりと男の前に降り立つと、ちょうどそこにはタイミングよく小太郎が走り込んできた。

「や、奇遇だね。
小太郎くんも来ていたんだ。」

「ああ、久しぶりやな。
俺のせいで千鶴姉ちゃんが攫われたからな。
絶対に助け出したらなあかん。」

「そういうことですか・・。
じゃあ、ここは手っ取り早く共闘でもしましょうか?」
なぜここに那波さんが捕まっているのだろうと疑問に思っていたがそれを聞いてすぐに疑問が氷解した。

「わかった。
お、そうだ。
おまえにはこいつを預けておく。」
そう言って髪の中から取り出したのは一つの瓶だった。
それを見て記憶の琴線にどこか触れるものがあったが以前悪魔を滅ぼす研究をしていたときに封魔の瓶の使い方を知っているのもあって何も聞かずに受け取った。

「わかりました。
それじゃ、小太郎君はあのスライムをお願いします。
僕は瓶を使ってあの男を封印してきますので・・。
と、いいたいところですがっ・・よっと!!」
ネギは途中で言葉を止めると突然前振りなくポケットの中から丸い玉のような小型の爆弾を取り出し、向かってくる三人組のスライムに投げつけ、ネギは即座に無詠唱で丸い玉に“魔法の射手 炎の1矢”を放つと、火によって燃え上がるように爆発を起こし、スライムたちは飛び散りながら吹き飛ばされた。

そこで、ネギは更に爆発を目くらましと奇襲攻撃の初動として扱うことによって迎撃されることなく驚いている男の間合いに飛び込んだ。

「おう・・って、おい!!」
完全にフェイントに利用された小太郎は思わず叫んだ。
ネギの思惑としては会話をしてわざと隙を見せ、そこに飛び込んできた彼らを更に利用した二段仕掛けである。

自分の被害を少なくし、常に何かを用意し、周りのものを利用する。
これこそまさに龍宮が教えた実戦の極意ともいえた。

「これでチェックです。
封魔の瓶!!」
見ていた誰もがこれで終わりだと思った。
だが、瓶は発動せずに、否、発動を阻害されて地に落ちた。

「ふむ、実験は成功のようだ。
放出型の呪文に対しては完全だ。」

「やっぱり利用されていましたか・・。」
その声は事実を確認するようであった。
最初のときに奇襲のために放った魔法の矢が無効化されたことからネギは頭の中でいろいろと仮説を立てていたため、驚くことなく受け入れたのだった。

「ほう、気付いていたのかね。
一般人のはずのカグラザカアスナ嬢・・・。
彼女が何故か持つ魔法無効化能力・・。
極めて希少かつ、極めて危険な能力だ。
それを今回は我々が逆用させてもらったよ。」

「明日菜さんの力がこんなに早く目をつけられるのは少々誤算でした。
ですが、甘いのはそちらです。
・・エセルドレーダ。」
その瞬間、明日菜の元に何処からともなく現われたエセルドレーダは明日菜の首元にあるペンダントを千切りとって握りつぶした。

「残念でしたね。
これであなたのアドバンテージはなくなりましたが、次はどうしますか?」

「ふははは・・・、やはりキミはいい。
先ほどの動きといい実に見事だ!」

「お褒めに預かり恐悦至極であります。」
ネギは皮肉を込めて一礼する。

「なんか俺っている意味なくねーか?」
いろいろ不満だらけの小太郎は彼らの会話を聞きながら一人ぽつりと呟くのだった。


「ところでネギくん。
キミに一つ聞きたい。
キミは何のために戦っているんだい?」

「あなたみたいな“悪”を殺すためですよ。」
理由は他にもあるが、皮肉を込めて口にする。

「キミは何を持って“悪”と認定する?」

「そんなものありませんよ。
あるとしたら所詮そんなものはただの価値観に過ぎません。」

「ふむ、なかなか面白い答えだ。
ではもう一つ聞くが、この顔を覚えているかな?」
そう言ってヘルマンが帽子を取った瞬間、すべての音が消えた。

“み・つ・け・た。”
ネギの声なき声が響いた。

そして、その瞬間ネギがまるで口が耳元まで裂けたような笑みを浮かべ、彼の身体からは歓喜と殺気が織り交ざった感情が吹き出す。
その殺気は遠目に見守っていた者ですら戦慄せざるをえないほどであった。

それと同時に、ぷつりとネギの中の理性が切れ、身体から吹き出す魔力なはまるで燃え上げる炎のように立ち昇り、その魔力は今までの比ではなかった。
そう、今のネギは魔力の限定解除を、エセルドレーダに魔力を制御してもらわずに自身本来の魔力を制御しているのだ。

「はははは・・・!!!
やっと見つけた。
嗚呼、この数奇な出会いに感謝するよ。」
それは憎悪、怒り、感激、愉悦。
様々な感情が入り混じった狂気。
まさしくネギの根源というべき姿が表面上に顕在化していた。

「ほう、なぜかな?」
突然の豹変に気圧されながらも態度を崩さないヘルマン。
だが、その表情に先ほどまで余裕はまるでなく、彼は自分が何か起こしてはいけないものを起こしてしまったことを理解していた。

「探していた相手が自分から会いに来てくれたんだからなぁ!!!」
そう叫んだ瞬間ネギの姿が消えた。
それは誰の目にも映らぬ速さ。
気付いたときにはヘルマンは上空に弾き飛ばされていた。

「ぐぅっ!」
「う・・らぁ!」
上空に弾かれた悪魔を追ってネギは高速で空を駆け、ネギは躊躇なく二本の指をヘルマンの眼窩に突き立て、目玉を抉りながら上空からそのまま片手でヘルマンを地面に投げ落とし、墜落を確認もせずに空中で呪文を唱え始める。
その速度は驚異的で、上空で体勢を立て直そうとしたヘルマンは眼球が潰されたことで感じる激痛に遅れて気付くほどであった。

「天狼星の弓(シリウスの弓)よ!」
その声と共にネギの手には巨大な金色の魔弓が顕在化する。
それと同時に、暗闇を灯すかのように微かにネギの身体が突如光り、幾何学的な呪印が浮かび上がった。
それは覚悟の証明なのか、彼は術者自らの血肉を削る諸刃の刃であることを知りながら自ら呪印を刻み限界以上の力を手に入れていた。

「あれはまさか!?
兄貴!!
それは使っちゃなんねえ!!!!」
カモは瞬時に気付いて叫んだ。
彼の身体に浮かび上がる紋様の正体を知るがゆえに。

「まさか・・、あれは!
やめるんだボーヤ!!」
カモと同時に、どこかで見ていたエヴァンジェリンさえも叫ばずにはいられなかった。
その危険性ゆえに。

だが、彼に声は届かず、それどころか自分が今何をしようとしていることすら気付いていなかった。
これは本来ならば彼では行使できるレベルではない、彼には過ぎた魔術。
魔術は等価交換。
しかし、逆上した彼にはそんな常識など関係がなかった。
足りなければ何処からでも持って行けばいい・・。 と、無意識のうちに己が身体に刻みこまれた呪印を起こし、魂を消費しながら術を行使した。

そして、今の彼は読めば狂うほどの外道の集大成であるナコト写本の知識すら抵抗なく引き出せている。
それは彼のなかで内に秘めた狂気が解放されたことのなによりの証明だった。

そして、矢は放たれた。
矢は落下した悪魔の元に吸い込まれ、爆砕する。
それは別の次元で、別の世界で最強の魔術師によって使われたものとは比べるのもおこがましいほどの弱々しい威力。
だがそれも仕方ないことだ。
あの最強の魔術師<マスターテリオン>は人の領域にないのだから・・。

「はぁ・・はぁ・ぐぅ・・ごほっ・・。」
過ぎた魔力行使のせいか、ネギは息を切らしながら手のひらで口を押さえて咳き込むと血の塊を吐き出すと、呪印は役目を終えてふっと光りを失い消えた。
そして、ごほごほと咳き込みながら吹き飛ばされた悪魔によってできたクレーターの中にゆっくりと降り立つと、そこには腹部を抉られ、四肢は片足しか残らぬ状態で今にも消えかけている片目が無残にも抉られている人間の顔に戻ったヘルマンがいた。
姿かたちは人間をかたどっているため、見るも無残で痛々しいが、ヘルマンを見下ろすネギの瞳はまるで虫けらを見下ろすかのようだった。

「はは・・、やられてしまったね。
これではどちらの方が化け物かわからんね。
それでどうするのかね?
殺すのだろう?
でないと、いずれどこかで再び召還されてしまうぞ。」

「殺す前におまえに聞きたいことがある。
あの時おまえを召還した者は誰だ?
そして、そいつはどこにいる?」
ネギはへルマンの軽口に答えず、ずっと前から捜し求めている問いを口する。

「私が言うと思うかね?」
今にも消えそうなくせに余裕の笑みを浮かべるヘルマンの姿を見ているだけでネギは自分中の狂気が際限なく膨らんできている気がしていた。

「・・・なら死ね。
二度と復活できないように魂ごと消し去ってやるよ。
これから唱える術はおまえたちのために何度も血反吐を吐きながら覚えた術だ。
使うのはおまえが初めてだ。
光栄に思え。」
オーバードライブによって引き出されたナコト写本の侵食ゆえかネギの口調や雰囲気は普段の落ち着きがある状態とはかけ離れていた。

「ふははは・・・、さようならネギくん。
残念ながら私はここで消されてしまうようだ。
これからは地獄の底からキミの行く末を見守るとしよう。」

「減らず口を・・・。
ラス・テル・マ・スキ・・・。」
ネギはへルマンの死に際ですら落ち着いた態度にちっと舌打ちをして呪文を唱え始めた。



視点 明日菜
「な、なに?
何なのアレは・・。」
修学旅行での戦いを経ているとはいえ、未だ思考が一般人の領域にある明日菜は豹変したネギの態度に恐怖を隠せなかった。
今の彼はもはや“死”の存在しか感じさせない。
場所が遠すぎて呪文は聞こえてこないがあの圧倒的な力の悪魔を簡単に塵に変えてしまった。

そして、ネギが私の拘束を解くために歩いてくる。
私は怖くなって叫んだ。
彼が私を殺そうとするなんて有り得ないのに・・。
そんなこと有り得ないのに、恐怖で我を失った私は懇願してしまった。

“来ないで・・。”


それが彼を最も傷つける言葉だってことにこのときの私に気付く余裕なんて無かった。


視点 ネギ
“来ないで・・。”
その瞬間、自分が何を言われたのかわからなかった。
胸に走る痛み。
伸ばした手を引き戻す。
それは恐ろしいほど緩慢な動作で、ネギは漠然と自分の心の動きを察した。

ああ、僕は傷ついているんだな。
当の昔にこんな“無駄な”感情はなくしていたと思っていたのに・・・。

彼には悲しい才能がある。
天才ゆえか、自分の心を客観的に見ることができる才能。
そして、自分を抑えられる精神。
その才能はネギの傷ついた心を表に出すことなく自嘲の笑みを浮かべさせた。

「エセル、明日菜さんをお願い。」

「イエス・マスター。」
怯える明日菜は女性の方が安心できるだろうと思い、拘束されたままの明日菜の保護をエセルドレーダに任せて水牢を作っている3人のスライムの方へと歩き出した。
彼自身気付いてはいないが、またも彼は他者を優先した。
自分の傷など気付かない振りをして彼の痛みは蓄積してゆく・・。

「次はあなたたちの番です。」
ネギの喋り方はいつの間にかいつものような理知的なものに戻っていたが、怒りの感情は抑え切れていなかった。

「やべえな。
ヘルマンのおっさんを瞬殺かよ・・。」
スライムたちは逃げたくても既に遅いことを悟っていた。
もしも逃げるのならヘルマンがやられる前に逃げるしかなかったことがわかるがゆえに逃げる動作すらしない。

「安心してください。
すぐには殺しませんよ。
やっと掴んだ手がかりです。
この中にでも入っていてください。
“封魔の瓶”。」
既にネギの口調は暴走前に戻ってはいるが、その内心は怒りで煮えたぎっていても、殺してしまっては意味がないと自己を律し、小太郎から渡された瓶の口を向けて呪文を唱えてスライム3人組を瓶の中に閉じ込めた。

「お、やっと自由になったアルね。」
「「「・・・。」」」
古だけは持ち前の明るさと呑気さで何も気にした様子もなく呟くが、他は誰もが口を閉ざして俯いていた。

「皆さん、風邪ひかないうちに部屋に戻ってくださいね。」
ネギは無表情で解放された皆に声を掛けるが、その意図はなくとも表情のなさが皆の恐怖を更に助長させる。

「兄貴!!
なんであんなものを身体に刻み込んだんだ!!
兄貴なら知っているはずだ。
あれは術者に強大な力を与える代わりにその魂と肉体を削るということを!!
兄貴は死ぬつもりかよ!!」
カモは我慢できずに叫ぶが、ネギはその言葉をまるで聞こえなかったかのように無視して、このかのほうに顔を向ける。

「このかさん。」
怯える彼らを気にせずこのかに声をかけると、このかはびくりと身体を震わせた。

「刹那さんをお願いします。
どこか外傷があるなら治してあげてください。
それと、みなさん怯えさせてしまってすみません。」
最後に付け足すように謝り、背を向けるとネギはすたすたと何もなかったような足取りで歩き去った。

「あ・・。」
「兄貴・・。」
そのときに漏れた声に気付かなかったのか、彼は一度も振り返ることはなかった。



そして、彼は誰もいない夜道で口ずさむ。
不器用な人生を、逃れられない運命を呪うようにその心を歌に変えて口ずさむ。

「I will kill you. (私があなたを殺しましょう。)
The death gives you the relief. (死があなたに安らぎを与えよう。)
Is denied the existing all.(その存在全てを否定し。)
In the soul and the body never to hesitate and the lead of ruin to you.(決して迷わぬように、その魂と肉体に滅びの導きをあなたに)
Before having given the end.(終焉を与えたまえ。)
・・・か。
ふ・・、ははははは・・・。」
ネギはそっと誰にも聞こえないように思いついたフレーズを言葉にし、その内容に再び狂ったように自嘲の笑みを浮かべて笑うのだった。


視点 小太郎
動けなかった。
俺は間違いなく恐怖を感じていた。
あのとき見せたネギの力は自分の本気を遥かに凌駕し、己の辿り着けぬであろう深遠の領域をまざまざと見せつけられた気すらしていた。

だけど、俺はあいつに勝ちたい。
あの圧倒的な底力を見ても俺の気持ちは変わらずネギ・スプリングフィールドをライバル以外の目で見ることなど出来そうになかった。

それは良くも悪くも小太郎が純粋であるからであり、そんな彼がネギにとってどれだけ救いになるのかなど彼にとってどうでもいいことだった。


視点 エヴァンジェリン&長瀬&茶々丸
広場から少し離れた壁の上に、三人の女性が一部始終を見守っていたが、三人が三人とも同じような感情を持て余していた。

「なんだあれは・・。 それに、あんなものを自分の身体に刻むなど狂っているのか・・。」
あのネギの豹変はエヴァンジェリンの目から見ても恐ろしいものだった。
正に狂気としか言い表せない負の感情の爆発に見守っていた3人は戦慄を隠せない。

「何があったかはわからぬでござるが、ネギ坊主の中にあのような狂気が潜んでいるとは・・。」
長瀬の口調は軽いものであったが、その真意は表情を見れば一目瞭然である。

「・・・。」
茶々丸もそんな二人の様子から何も喋らないほうがいいと判断して黙っていることにしかできなかった。


視点 ナイア
「それだ!!
それだよネギくん!
僕はこれが見たかったのだよ。
嗚呼、やっとだ。
やっと“鍵”が開いた。
さあ、偽りの日常に終わりを告げたまえ。」
どこか見ていた邪神は笑い、禍々しい笑みを湛える。
高らかに笑う。
嘲笑するように、愛しさと喜びを隠すことなく高らかに笑い続けていた。


視点 ネロ
「あらら〜、ナイアの狙い通りになっちゃったかな〜。
さて、これからはどう動くかな?
でも、ナイアは人を見縊りすぎだね。
それだから九朗に負けるんだよ。」
ネロは癖のある髪を指先で弄びながら薄く暗い笑みを湛える。

「人っていうのはそう簡単じゃないんだよ。
繋がりがあるからね・・。」
さびしそうに呟いたその表情はまるで過去を懐かしむかのように優しかった。



あとがき
作中の魔法は完全に誤魔化しました。
だって、本編だとまだあの呪文(悪魔を滅ぼせるやつ)はでてきてないんで・・。

ネギが口ずさんだ英文は一個もしかしたら不完全な文体があるかもしれませんが気にしないでくださいw
ぶっちゃけそうしないとうまく文があわないんですよね
ちなみにラテン語もわからなくもないのですが、翻訳がめんどいので英語にしました。
なんかこれちがくない?
とか思っても無視してください。
否定文とか詩みたいな形にしているせいで構成がかなり甘いので・・。
ちなみに言葉の構成とか詩調なのは聖書の影響です。
(キリスト教なわけではありませんが、聖書はかなり前に読破したことがありますので・・・。)

今回はかなり?ダークなお話でしたがどうですか?
自分としては結構気に入っています。
まあ、手抜き感は否めませんが・・。

ここらがターニングポイントなので色々と視点を切り替えて書きました。
様々な思惑が交錯するといった感じで。
そして、小太郎が完全にかませ犬と化しているのは勘弁してください。
個人的には好きなんですが、ライバルとして危機感を持たせたいな〜、なんて思っているのでこんな役割に徹してもらいました。


それと、第1部終了ということもあって無理やり40話に詰め込みました。
キリがいいので・・。
でも、この話を書いたのはかなり前。
前話とかのほうが書くのに苦労して中々公開出来なかったという裏話が・・。

ああ、いい忘れてましたがここで第1部完です。
といっても、第2部はそのまんまへルマン戦後に続きます。
時系列的には少し飛ぶかも知れませんが大まかには今までと全く変わりません。
なんでご心配なく。

それと、ネタバレですみません。
コミックス派の人にはわからないネタです。
タイムリーですが使ってみました。
中途半端に付け足したのでどこか文がおかしいかも・・。
まあ、ドンマイ!!

それでは。
感想お待ちしています。
ていうかください。

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