ナコト写本の契約者

第50話



「返事を聞かせてもらおうかネ。
私の味方になるか、それとも…」
敵になるか?
とは最後まで言わずに超はネギの返事を待った。

「僕はあなたに協力しましょう」

「そうカ、感謝するネ」
ネギの返事を聞いても超に驚きはなかった。
超にはわかっていたのだ。
ネギがこちら側を選ぶことを。

「それで、僕はどうすればいいのですか?
信用できないのならば何か制約でも背負いましょうか?」

「ご心配には及ばぬヨ。
これでも私はネギ坊主を買っている。
そのキミが他のことならまだしも、この件について約定を違えるとは思わないネ」

「ありがとうございます。
それと、信用してもらえたついでにそろそろその銃口を下ろしてもらえませんか?
龍宮さん」

「いやいや、流石ネ
噂に違わぬ能力ヨ」
超は賞賛をもってぱちぱちと手を打ち鳴らした。

「ふ…、それでこそキミを鍛えた甲斐があるというものだよ」
龍宮は顔面に薄く笑みを貼り付けいきなりその場に転移したかのように、死角となっている影から姿を現した。

「そのわりには、ヒントがありすぎたような気がしますが?
それに、本当に僕を狙うのなら、あなたがわざわざこんな近くに控えるわけがありませんからね」
伊達に龍宮に師事をしたわけではなかった。
ネギは彼女の性格や、能力を把握しているため、本気になった龍宮の狙いを察知するのはほとんど不可能と知っていた。

「それも含めてだよ。
私に師事する前のキミならば察知は不可能だ。
それと、キミが超の協力を断らないことも私はわかっていたからな」

「そうですか。
ところで、龍宮さん超さんに協力を…?」

「ああ。
金で雇われたのもあるが、私自身が彼女の考えに賛同した」

「そう、我らは同志ヨ。
信念こそ違えど、目指す先は同じであるならば共に新たな世界を創ろうではないカ」
超はどこか熱のこもった口調でにやりと表情を歪めるのだった。





「ついに始まってしまうんだね…。
九朗…」
どこかの世界の、どこかの場所で少女…ネロは癖のある赤毛のショートヘアを指先でくるくると弄びながら、まるで恋する少女のように、まるで全てに絶望したかのように、彼女は相反する二つの感情をもって呟く。

「そう、ついに、ついに始まるだよ。
これは新たなる物語を紡ぐための準備だ。
運命からは逃れられないんだよ、ネロ」
背後から瘴気が含まれた声が響く。

「キミはいつも唐突に訪れるね、フェイスレス」
その声に驚きもせずにゆっくりとネロは振り向くと、そこには女性の形をした闇…邪神が妖艶な笑みを貼り付けて佇んでいた。

「ふふふ、それが僕だからね」

「それでキミはまた、あのクラインの壺でも作るつもりかい?
でも、あの子じゃ、何十万回やり直したところで絶対に九朗たちに追いつけない。
それはキミが一番良くわかっているだろ?」

「心配はご無用だ。
さっきもいっただろう。
これは、新たな物語を紡ぐための下準備なのだよ。
九朗くんたちが来るのも予定通りであり、そのために彼にナコト写本を託したのだからね…」
ナイアは口元を歪ませ、小さく笑う。

「そうか…、キミの真の目的は…」
ネロはこの茶番劇においてのナイアの真意にやっと気付いた。

「ふふ…、さて、それはどうだろうね?」
はぐらかすような呟きを残して、いつの間にかナイアは姿を消していた。

「九朗…」
ネロはもう誰もいない、ナイアの消えた空間を見つめながらそっと一人の名前を呼ぶ。
それに、どんな感情が込められていたのか、呟いた彼女にもわからなかった。





あとがき
随分間が空いてしまいましたが、やっと50話です。
というか、50!?
なんか50話書いてまだここかよ!?
って感じもありますが、今回は結構重要なお話だったかと思われます。

現在記憶のサルベージをしながら書いてますので、構成の甘さには目をつぶっていただけると大変助かります。
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