10万HIT記念SS

注:この話は少々残酷な描写が含まれますので嫌いな方はご注意ください。



これはある雪の夜に悪魔の軍勢に最後まで屈しなかった一人の名も知れぬ英雄のお話。
英雄がいたことは誰も知らない。
なぜなら真実を知るものはもういないのだから・・。


ナコト写本の契約者 

外伝0 past -名も知らぬ魔法使い-



この日も俺は一人で、魔法の修練に励んでいた。
俺の魔法使いとしての実力はかの“サウザンドマスター”には到底叶わないが他から見れば実力が高いほうだと自負している。

サウザンドマスター。
最強の魔法使いであり、英雄。
目指すべき目標でもある。
そもそも俺がこの村に移り住んだの自体、あの人に憧れ、追いつきたいと思ったから。
皆は彼が死んだというが俺はまったく信じていない。

悪魔に囲まれ死を覚悟した俺を彼は瞬く間に蹴散らし助けてくれた。
俺はあのときのことを決して忘れたりはしない。
同時に感じた畏怖と憧憬も今となっては懐かしい思い出だ。
そんな圧倒的な力の持ち主がそう簡単に死ぬはずがない。

そして、その日以来何も告げずに去った彼の足跡を追ってこの村に辿り着いた。
そこには彼はいなかったが彼の子供たちが平和そうに暮らしていた。

俺は子供たちを見て誓った。
あのときの借りは彼らを守ることで返そうと。
守るような事態が起きないことを祈りながら誓いを心に刻んだ。

しかし、運命のときは訪れた。

村に突如現われた悪魔。
数が多い上に少ないが爵位級すら存在していた。

勝てない・・。
背中に冷たい汗が流れる。
恐怖が沸き起こるのを杖を強く握りこむことで必死に押さえ込んだ。

死を覚悟した。
サウザンドマスター、あのときのもらった命お返しいたします。
あなたの子供を助けるために少しでも多くの敵を道連れにしていきます。

俺は村のみんなと一緒に悪魔に対峙する。
次々と倒れていく仲間。 あるものは殺され、あるものは石化され、焼かれ、犯される。
ここは正に地獄だった。
燃え盛る村。
辺りに響く断末の悲鳴。

だが、この状況にあっても狂うことは出来ない。
少しでも気を逸らせば次は自分の番なのだから・・・。

となりで詠唱していた男の首が悲鳴もなく足元に転がってくる。 俺はそれに気を取られ、一瞬視線を逸らしてしまった。

それはコンマ数秒の隙。
しかし、その場においてそれは致命的過ぎた。

ズブリ・・。

細身の悪魔の手が腹部に突き刺さった。
衝撃に遅れるようにして血を吐き出す。
傷口から血が流れ落ちる。
力が抜ける。
視界がかすんで何も見えない。

そんな状況なのに俺の口はかすかに歪んでいた。
俺には禁断とも言える秘技があった。
自分だけが使えるオリジナルの魔法。
生涯で一度しか使えぬ必殺の切り札。
それは自らの死と引換えに魔力を爆薬に変える秘技だった。

“解放”

最後の力を振り絞って溜めていた力を解き放つ。
放出するのでもなく体内で解放された力は行き場を失い、体内で膨張し弾けることで魔力の爆弾と化し、当たり一帯を悪魔もろとも吹き飛ばした。

彼は死の間際に誓いを胸により多くの悪魔を屠ることを選んだ。

それが守ると決めた彼らを助ける道に繋がるのだと信じて・・・。



あとがき
過去編。
襲撃された村で戦い続けた一人の英雄の男のお話。
自分の命と引き換えにかなり多くの悪魔を道連れに・・・。
ちなみに今更ながら今回出てきた魔法使いさんがあの日の悪魔殲滅の功労者。
原作ではナギですが、このSSでは彼です。
裏話です。
それは誰も知らない英雄譚。